14.4-21 学生デビュー21
ミレニア=カインベルクは、学院長マグネア=カインベルクの孫である。ゆえにミレニアは、学院の初等学科で習う授業を普段の生活の中で祖母から受けており、所謂英才教育を受けた優等生と言える人物だった。当然、教科書の中身はほぼ暗記しており、明日一日くらい教科書が無くとも、授業に付いていけないということはない。
そんな彼女のことを良く知っている者からすれば、ワルツたちを追いかける彼女の行動は、俄には受け入れがたいものだと言えた。彼女は優等生。誰かのことをストーカーするような人物ではなかったからだ。
しかし実際、ミレニアにとっては、ワルツたちの事が気になって仕方がなかったのだ。ワルツたちは何をするにしても、トンデモ行動ばかりを繰り返すのだから、委員長気質の彼女が興味を持つことは、ある意味、自然な事だったと言えるかも知れない。
ミレニアが観察していると、ワルツたちは1時間足らずで4冊の教科書をすべて写し終えたらしく、図書館を後にしようとしていたので、ミレニアはそれを追いかけた。もちろん、ワルツたち4人組には気付かれないよう注意を払いながらだ。
ワルツたちが特例的に自宅から通っていることを知らないミレニアは、寮の方向へと歩いて行く4人組を見て、寮に帰るものだと思い込みながら、4人の後を追いかけていた。かなり離れた場所から追跡していることもあり、彼女には4人の会話が聞こえず、これからワルツたちが何をしようとしているのかは、当然知るよしもなかった。
寮へと向かいつつ、談笑しているような、あるいは喧嘩をしているような雰囲気を漂わせていた4人の姿を観察しながら、ミレニアは複雑そうな表情を浮かべる。
「(どんな話をしているのかしら?もっと話が聞こえるくらいの距離に近付くべき?いえ……嫌われているんだし、距離は取っておいた方が良いわよね……)」
そんな事を考えながら、ミレニアはふと考える。
「(……どうして私、こんなことをしているのかしら……)」
どうしてこんなことになったのか……。ミレニアは改めて考えるも答えにはたどり着けなかった。気付くとワルツたちの行動に目を奪われていて、そしてここまで追いかけていたのである。最初から答えなど無いのだから、どんなに考えても答えが出てこないのは当然のことだと言えた。強いて言うなら、ワルツたちは、ミレニアにとって、初めて敵対関係になった学生だった、という事くらいだろう。
「(ほんと何でだろう……)」
どんなに悩んでも答えは見つけられない……。考え込んでいたミレニアが頭を振って顔を上げると、そこには——
「あっ、置いて行かれた?!」
——そこにはすでに4人の姿は無く、ミレニアは完全に置いてけぼり状態。
結果、彼女は慌てて寮の方向へと走った。図書館から寮までは一本道。ゆえに、その内、ワルツたちに追いつくはずだったのだが——、
「い、いない……」
——どんなに走っても4人の姿は無く……。ミレニアは途方に暮れてしまう。
仕方が無いので今日はワルツたちの事を追いかけるのは諦めよう……。ミレニアが諦めモードに入ったそんな時のことだ。
『さぁ、寮に住む学生たちよ。お主たちは自由なのじゃ。寮から出ても良いのじゃ』
まるで魔道具でも使ったかのような大きな声が聞こえてくる。その声に聞き覚えのあったミレニアは、尻尾が3本生えた銀色の長い髪を持つ獣人のことを思い出しながら、声のする方向へと走り始めた。
おそらくこちらの方向にワルツたちがいる……。そんな確信を抱きながら、ミレニアは走って行くのだが、茂みを越えたところで、彼女は予想だにしない状況に遭遇することになった。
ドンッ!
「きゃっ?!」
「んなっ?!」
ミレニアは誰かにぶつかったのだ。それもかなりの勢いでぶつかったようで、2人揃って倒れ込んだ。ミレニアが下。誰かが上、という形で。
ぶちゅぅ!
何か生暖かい感覚がミレニアの首筋を襲う。そして、とても重いものが、彼女の身体にのし掛かった。
「ぐえっ?!」
まるで鉄の塊に押しつぶされるかのような感覚が身体を押しつぶそうとしている……。そんな感覚を最後に、ミレニアの意識はぷつりと切れてしまったのである。
首に、ぶちゅぅ、とやる以外に、ミレニア殿が生き残れる方法を思い付けなかったのじゃ。




