14.4-20 学生デビュー20
「……まぁ、ルシアが魔法を使って本を探すのは分からないでもないわ?でも、アステリアはどうやって本を探したの?」
ルシアとアステリアがほぼ一瞬と言える時間で目的の教科書を探し終えた後。図書館にあった机に陣取りながら、ワルツはアステリアへと問いかけた。ワルツから見る限り、アステリアはただ走り回っていただけのよう。彼女が魔法を使ったようには思えなかった。
そんなワルツの質問に、アステリアは苦笑を浮かべながら自身の特技を語る。
「実はモノを探すのが得意なんです。今回みたいにたくさんの本や荷物の中から目的のものを見つけるとか、森の中で木の実を見つけるとか、魔物を見つけるとか……」
「そうなの……(まさに獣ね)」
と思いつつも、ワルツはその言葉を口にしなかった。口にすれば、流石に失礼に当たると考えたらしい。他の2人も深くは追求せず……。結果、4人ともが見つけてきた教科書の中身に目を向けた。
教科書は、言葉の使い方だったり、計算方法だったり、あるいは歴史書だったり……。日本で言う小学校レベルで学ぶような事柄が書かれていた。
「いろは歌が書かれているわね……。またどこかの召喚者が広めたのかしら?」
「うん?」「はい?」
「ううん。なんでもないわ?ちらっと見る限り、内容的には大したことないわね」ガガガガガ
そう言いながら、ワルツは、ノートに教科書の内容を書き写し始めた。当然、一字一句まったく同じだ。筆跡すら同じで、挿絵も忠実にコピーする。そう、コピーだ。
その様子を見ていたアステリアは、目を丸くして固まってしまったようだ。そんなアステリアがワルツの筆記を見てどう思ったのかは定かでないが、彼女はしばらくワルツの様子を見た後で、こう口にする。
「私も頑張らないと!」かきかき
「(いやぁ……無理だと思うけどなぁ……)」
「(人の手では無理じゃろ……)」
ワルツの正体を知っていたルシアとテレサは思う。……ワルツのように書籍をコピーをするのは、人の身では無理ではないか、と。
そんな2人もペンを動かし、それぞれ別々の教科書を書き写していく。自分の分のテキストを書き写さなければ、明日の授業が悲惨な事になるからだ。
ガガガガガ……
カキカキカキ……
カキカキカキ……
カキカキカキ……
まるで文章を書いているとは思えないような音が図書館の中に響き渡るが、当の本人であるワルツと他3名は気にしていなかった。気にしている者がいるとすれば、彼女たち以外の図書館利用者。……そう、図書館にはワルツたち以外の利用者がいたのである。
実は、図書館内にはワルツたちが気付いていないだけで、少なくない数の利用者がいたのである。学生たちだけではない。教員たちもそうだ。彼らもまた、授業や研究活動のために書籍に目を通さなければならず、ワルツたちがいる場所とは別のフロアで本に目を通していたのだ。尤も、彼らには、ワルツたちの存在を知ることは出来なかったようだが。もしも存在に気付いていたなら、ルシアの検索魔法(?)を前に唖然としていたに違いない。
しかし、何事にも例外がいるらしい。ワルツたちがいたフロアの本棚の影に、身を潜めている者がいたのである。
「(さっきから何やってるのかしら?あの娘たち……)」
魔法科のミレニアだ。ワルツたちとそう年の離れていない——どころか、同じ学年の彼女も、図書館で明日の授業の準備をしようとしていたのである。
彼女が探していた書籍は、ワルツたちが今まさに書き写していた本だった。本来であれば、ワルツたちに混じって書き写すところだが、彼女は今、ワルツたちと非常に仲が悪い状況。それゆえ、近付こうにも近づけず、少し離れた場所からワルツたちの様子をうかがっていた、というわけだ。
「(本を書き写してる、って感じの音じゃ無いんだけれど……)」
ガガガガガ……
「(魔法?)」
離れた場所にいるミレニアから見る限り、ワルツはパラパラと本を捲りながら、凄まじい速度でノートをペンで叩いているように見えていた。むしろ奇行に及んでいるように見えていた、と言っても良いだろう。
一体何をしているのか……。なんとなく予想が付きつつも、ミレニアは本棚の隙間からワルツたちの行動を観察し続ける。すると、ミレニアにとって、ある意味予想通りであり、そしてある意味予想外の発言をワルツが口にする。
「はい、1冊目。全部書き写したわよ?」
「……は?」
ミレニアは思わず口をあんぐりと開けてしまったようだ。ワルツが書き写していた言葉の教科書は、300ページほどにわたってビッシリと文章が書かれているはずの書籍だからだ。にもかかわらず、それをまるごと1冊書き写したというのだから、驚きを超えて理解が追いつかなかったとしても何ら不思議は無いと言えるだろう。
この出来事を境に、ミレニアの日課が増えることになる。具体的には、ワルツたちの観察、という名の日課が。
ミレニア嬢が仲間に入りたそうにワルツたちの方を向いておるのじゃ……。
しかし果たして……。




