14.4-18 学生デビュー18
そして午後のオリエンテーションが始まって、遂にそのときが訪れる。
「では皆さんが進む学科をお聞きしたいと思います」
ハイスピアが言うとおり、志望する学科を決める瞬間がやってきたのだ。
「まぁ、お聞きすると言いましたけど、実はもう決定しています。皆さんは薬学科です」
「えっ……なにそのスリザr……いえ、なんでもないわ……」
自由に学科を選べるのではないのか……。ワルツだけでなく、ルシアもテレサも、そしてアステリアも皆が同じ事を考えたようだが、どういうわけか選べないらしい。
そこにはこんな事情があった。
「皆さん、話が違う、と言いたげな表情を見せていますが、3つの理由から、皆さんは薬学科以外を選ぶことができません。まず1つめ。これは午前中の模擬戦が関係しているのですが、どうやら皆さんは騎士科の教員の方を怒らせ……いえ、怖がらせてしまったようで、騎士科からは来させないでほしいと連絡を受けています」
「はぁ?」
「あの程度で?」
「軟弱なのじゃ」
「ははははは……」
「うーん……私も立ち会ったはずなのですが、何故か全然記憶がないのですよね……。まぁ、それは良いとして、同じように魔法科の教員からも、匙を投げられている状態です」
「えっ?なんで?」
「魔法科の先生とは会ってないよね?」
「差し詰め、ア嬢の魔力でも感じたのじゃろう」
「は、はは……」
「詳しい理由は分かりませんが、この1つ目の理由だけで、皆さんが入ることの出来る学科は薬学科のみとなりました」
「えっと……今の騎士科と魔法科の先生の話はひっくるめて1つ目の理由で、あと2つあるってこと?」
「そうです。学院長に聞いたところによると、みなさんは自動杖の開発に興味があるとか。自動杖の開発だけでなく、魔道具関連の開発に携わるための近道は、薬学科に入ることですから、やはり皆さんには選択肢がありません。騎士科や魔法科に所属した後で自動杖関連の研究室に所属したとしても、実際の研究開発に携われるわけではなく、主にやることは使う側の評価です」
「まぁ、確かにそんな感じはするわよね。騎士科とか魔法科とか、言っちゃアレだけど、脳筋が多そうだし……」
「魔法科だったら、魔道具を作るっていうのもありそうだと思うけどなぁ……」
「魔法科は魔法そのものを使うことに特化しておるのじゃろ。騎士科と合同で演習をするくらいじゃからのう」
「ちょっと私には付いていけない話です……」しょんぼり
「で、最後の理由は?」
「単純です。薬学科の教授である私からの推薦です!」ドンッ
「「「「…………」」」」
4人の表情はまったくと言って良いほど同じだった。結局それが言いたいだけだったのではないかと疑うような表情だ。
しかし、4人とも否やはなかったようである。ワルツの場合は、他の2つの課よりも確実に単位が取れそうだと思ったこと。ルシアの場合は、これ以上強くなっても仕方がないと考えていたこと。テレサの場合は、ワルツに合わせようと考えていたこと。そしてアステリアの場合は、兵士になるつもりがまったくなかったことが、それぞれ薬学科を選ぶ理由になっていたようだ。
「……まぁ、先生に言われなくても薬学科よね」
「私も良いと思うよ?」
「ワルツがそう言うなら否やはないのじゃ」
「良いと思います。薬学科!」
「本当?」ぱぁ
「えぇ……。4人とも薬学科を希望します」
「よしっ!」
ハイスピアは、皆の前でガッツポーズを取った。よほど、ワルツたちを薬学科に入れたかったようである。
その後は、大量のノートと筆記用具の配布が行われた。活版印刷のようにテキストを大量生産する技術はレストフェン大公国には無かったらしく……。教科書は図書館にあるものを皆で共有しながら、ノートに書き写し、授業に臨むというスタイルが、この学院のやり方なのだとか。
つまり——、
「オリエンテーションが終わったら、早速、教科書の内容を書き写してきて下さい。明日の授業の範囲は黒板に書いてある通りです」
——ということになり、オリエンテーションを終えたワルツたちは、早速、図書館へと向かうことになったのであった。




