14.4-17 学生デビュー17
「魔力を……貰う……?渡せるの?」
一般的に言えば、魔力を誰かに譲渡することはできない。いまだ、各国で研究が続けられている段階である。もしも魔力の譲渡が可能になるなら、魔力の使いすぎによる魔力欠乏症を克服出来るどころか、戦場で誰か魔法の扱いに長ける者を砲台にして優位に戦闘を行うということも可能になるはずだ。もしもそれが可能になれば、国と国とのパワーバランスが大きく崩れることだろう。……ただし、ある特定の国だけを除いて。
魔力の授受が出来るという話を聞いたことが無かったルシアは、驚いた様子でコルテックスに問いかけたわけだが、しかしどうやら本当に魔力の授受は可能らしい。
「えぇ〜。カタリナ様の研究によって、誰かに輸血して貰うと、ある程度魔力が回復することは確認されています」
「そっかぁ……確かに輸血ならありえるかも知れない。でも、それ以外の方法で魔力の受け渡しって無理だよね?」
ルシアが自身の発言をフラグだと理解していたのかどうかは定かでない。コルテックスからすれば煽るような発言だったことも恐らくは分かっていないだろう。
ルシアの言葉の副音声はこうだ。……コルテックスでも、魔力の受け渡しを実現するような魔道具を作るのは不可能だろう、と。
そんなルシアの発言に、コルテックスが黙っているわけがなかった。
「……ふっふっふっふ〜」
コルテックスが肩を揺らしながら笑みを浮かべる。それも怪しい笑みを、だ。
「随分と下手に見られているようですね〜?さてはルシアちゃん、しばらく見ていない間に、私という人物がどういう人物だったのかを忘れてしまったのではないでしょうか〜?」
「……テレサちゃんがそっくりな人?」
「妾がではなく、コルが妾にそっくりなのじゃ!」
「強ち間違いではありませんけれどね〜。まぁ、冗談はさておいてです。実は魔力をやり取りするための魔道具は既に完成しています」
「!」
「正確には、魔力を抜き取る魔道具です。……これです!」
まるで効果音でも鳴りそうな雰囲気を醸し出しながら、コルテックスがバッグから取りだしたものは——、
「……コスプレグッズかの?」
——どこからどう見ても、コスプレに使う小道具のようなものだった。コウモリの羽のようなものである。もちろん、2枚で1対だ。
コルテックスはそれを両手に持つと、テレサの後ろに回って、ブスッ、と彼女の背中に突き刺した——ようにみえただけで、謎の力で接着したようである。
「コレを身につけている間、誰かの皮膚に口を付けると、相手の魔力を吸収出来ます。名付けて、"なんちゃって吸血鬼〜"」
「……輸血をすれば魔力を吸い取れるという話を聞いてから、なんとなく予想は付いておったのじゃ。これ、付ける意味、あるのかの?普通に血を飲むのとどう違うのじゃ?」
「何を言っているのですか〜?妾〜。ちゃんと私の説明を聞いていましたか〜?これを付ければ誰かに口を触れているだけで、魔力を吸収出来るのです。血など飲む必要はありません。そもそも、魔力が回復するくらい血を飲んだら、吸っている人も、吸われている人も、死んでしまうではありませんか〜」
「……説明が短すぎて、そこまで意図を汲めなかったのじゃ。じゃが、なるほど……。つまり、妾は、誰かに接吻して回らねばならぬということかの?」ちらっ
「……ちょっとこっち見るのやめてくれない?テレサ」
「あー、お姉様は魔力を持っていないですから、どんな事をしても魔力の補充は出来ませんよ〜?」
「……つまり、誰かに魔力を貰うことは事実上不可能と。ア嬢は——」
「ちょっと……私の方も見ないでよ」
「……魔力を補充する以前に、命を落とす危険がありそうだし、アステリア殿の方も困ると思うしのう……」
「き、狐好きって、やっぱりそういう——」
「いや、違うからの?吸おうともしておらぬからの?」
少なくとも、この場で誰か魔力を吸わせてくれそうな者はいない……。いや、そもそも、誰彼構わず接吻すれば、社会的に死ぬのではないか……。そうとしか思えなかったテレサは、やるせなさそうに大きな溜息を吐いて、魔道具を外すことにしたようだ。
「……っ!ふんっ!せ、背中に手が届かぬ……!」
「まぁ、そういうわけなので、もしも言霊魔法を連続して使いたい場合は、その魔道具を身につけたままで、誰かに魔力を分けて貰って下さい。おや、そろそろ戻らなければ……」
コルテックスはそう口にすると、床の隠し扉の中へと戻っていった。今頃は無事にミッドエデンへと到着していることだろう。
「と、取れぬ……!だ、誰k——」
「さて、ちょっと早いけど、教室に戻りましょうか」
「うん」
「はい」
「ちょっ、まっ……ま、待つのじゃ!だ、誰でもよいから、背中の魔道具を……!」
背中に手が届かず藻掻くテレサを余所に、ワルツたちは教室へと戻ることにしたようである。その際、テレサは放置されたわけだが、彼女が何故放置されることになったのか、恐らくテレサ自身は気付いていないことだろう。




