14.4-14 学生デビュー14
やってきたミレニアに気付いたワルツは、何を思ったのかビクビクとしていた。人生で学生というものを経験したことが無く、現在進行形で体験している彼女にとって、ミレニアたちが集団でやってくるというのは、想定していた中では最悪な出来事だったのだ。
それ即ち、当校1日目からのイジメの始まりである。ワルツたち4人組は、3人が獣人で、1人が背の低い幼女にしか見えず、虐められる要素しか無い——というのがワルツの認識。そんな彼女たちのところに強面の上級生たちが寄って集ってやって来れば、それはもう、イジメ以外に起こりえないとしか思えなかったのだ。
しかし——、
「さっきはごめんなさい!」
「えっ?」
——ミレニアたちは、なにも喧嘩をしたくてワルツたちに近付いてきたわけではないらしい。ミレニアを始めとして他の全員が、一斉にワルツたちに向かって頭を下げたのだ。
なぜ謝られるのか理解していなかったのは、ワルツ以外の3人も同じだったようだ。結果、4人が顔を見合わせて首を傾げていると、彼女たちが状況を理解していないことを察したミレニアが、謝罪の理由を話し始めた。
「模擬戦の時、身の程も知らないで食ってかかったでしょ?あのことを誤りたかったの。まさか、騎士科の先生まで逃げるくらい強いとか、思ってなくて……」
ミレニアの説明で、ワルツたちはようやく事情を理解した。模擬戦を見学した際、4人は食ってかかられたというよりも、どちらかといえば一方的に虐げていた側だったので、謝罪される理由が分からなかったようだ。
そんなミレニアの謝罪をワルツは素直に受け入れて、すべてを水に流そうと考えたようである。それで学生生活が上手くいくのなら、彼女には言うことは無いのだ。事なかれ主義をど真ん中から突き通そうと考えるワルツにとっては、当然の選択だと言えた。
「そんなこと——」
気にしていない……。そう口にする前に、ルシアが机をバンッと叩いて立ち上がる。
「ちょっとそれどういうこと?!」
「ええ……」
ワルツはドン引きだった。何を怒ることがあるのか、彼女にはまったく分からなかったのだ。しかも、ルシアは、模擬戦の際、ミレニアたちと仲良くしたいがために、ワルツに仲裁を求めていたほどなのだ。せっかく相手側から譲歩してきたというのに、それを突っぱねるというのは、ワルツは到底理解出来ない事だったのである。
しかし、次にルシアが口にした言葉を聞いて、ほんの少しだけ考えを改めることになる。
「じゃぁ、先生が逃げなければ、私たちの事を馬鹿にしてたって言うの?逆に言えば、私たちじゃなければ、馬鹿にしてたって事だよね?それ、ただの弱い者イジメじゃん」ぷんすか
「(あー、なるほど。私たちが弱ければ、喧嘩を売っても良かったって捉えられる訳ね……いやいや、ちょっとそれ考えすぎじゃない?)」
「何だったら、今すぐ、またボッコボコにしてやるんだから!……テレサちゃんが!」すっ
「……ア嬢。対応が面倒になったからと言って、妾に丸投げするのは如何なものかと思うのじゃ?」
「いや、これでいいと思う。だって、私が対応したら、喧嘩にしかならないから!」ぷんすか
どうやら、ルシア自身も、自分が短気であるという自覚はあったらしい。そんな彼女の判断を聞いて、ハラハラとしていたワルツも、話を聞いていただけのアステリアも、テレサが対応すればどうにかなると胸をなで下ろしていたようだ。
「まったく、仕方ないのう。で、お主ら、何しに来たのじゃ?」
「(ちょ、ちょっと……テレサも随分攻撃的じゃない?!)」
歯に衣着せぬ話し方に、ワルツは内心でハラハラとする。まさかテレサもルシアと同じく攻撃的だとは思わなかったのだ。
しかも、テレサの発言はそれで止まらない。
「妾たちからどんな発言が返ってくることを期待しておる?謝罪したゆえ、はいそうですか、と答えれば良いと?こちらの考えなどお構いなしに、譲歩しろと言うのかの?それはあまりに高慢ではなかろうか?この際じゃから、白黒つけようではないか!……ルシア嬢が」すっ
「……うん?」
「ア嬢。妾は思うのじゃ。一度、出来た蟠りを完全に無くすためには、白黒つけるしかないのではないか、と。所謂、小拳という名の肉体言語なのじゃ」
「あー、なるほどね」
「(なるほどね、じゃないわよ……。この2人、今日は、なんかすんごく攻撃的なんだけど?)」
ワルツが何も言えずにあたふたしている一方、ミレニアたちも慌てる——を通り越して、泣きそうになっていたようである。模擬戦の際にワルツに超重力を受けて地面に沈み込んでいた男子生徒などは、顔を真っ青にしながら逃げていく始末。最早、ワルツたちとミレニアたちとの間に出来た溝は、修復不可能なレベルだと言えた。
と、そんな時。
カンコーン……
授業開始5分前を知らせる時計塔の鐘が鳴った。
23時の投降に間に合わなかったのじゃ……2分だけ。




