14.4-13 学生デビュー13
そして夕食を食べ終わった後。業務があるハイスピアは早めに戻り、ワルツたちだけが食堂に残されることになった。定刻まで、しばらくは自由時間。時間になったらオリエンテーションを行った教室に集合するという話になっている。
「さて、どこに行く?どこか行きたい場所とかある?」
ワルツは食事を平らげた3人に問いかけた。しかし、ルシアとテレサは顔を見合わせて首を傾げるだけ。特に行きたい場所は思い付かないらしい。
ワルツは次に、アステリアへと視線を向けた。すると、アステリアは何かを悩んでいる様子で、どこか申し訳なさそうに俯いていたようである。
一体何を悩んでいるのか……。ワルツはアステリアに向かって問いかけた。
「アステリア?何かあった?変なものを食べてお腹を壊したとか……」
まさかのゲテモノ料理でお腹を壊したのではないか、などと思うワルツだったが、元々ハイリゲナート王国に住んでいるアステリアがハイリゲナート料理(?)を食べてお腹を壊すわけは無かった。彼女は料理とはまた別のことで悩んでいたのだ。ただし、どこか行きたい場所があった、というわけでもない。
「私、本当に学生になっても良いのでしょうか……。学生になるためには、入学試験を合格するだけでなく、お金もかかると聞いていますが、そのようなものを私には払えません……」
「あ、そういえば私たち、学費を払ってなかったわね。というか、払えって言われてないわね」
「えっ」
「払わなくて良いんじゃないかなぁ?ジョセフィーヌさんの推薦もあるみたいだし」
「いや払わなくて良いとも言われておらぬじゃろ……。後でハイスピア殿に確認してみるのじゃ」
「そうね。学費が払えなくて退学とか悲しすぎるし。まぁ、魔法が使えれば学費くらいなんとでもなるわよ。その辺の土を掘って、オリハルコンを生成して売れば良いお金になるし」
「は、はい?」
「つまり、お金なんてアステリアでも簡単に貯められるから気にするな、ってこと。むしろ気にすべきは、無事に卒業出来るかどうかの方ね」
卒業するためには、当然ながら、授業を受けてテストを合格し、"単位"を取らなければならないのだが、アステリアの場合は、鼻のてっぺんから爪先まで、ビッシリと毛の生えた獣人。この国では蔑まれる対象なので、他の学生たちから白い目で見られる可能性が否定出来なかった。学業を消化しながら、他の学生たちとも良好な関係を気付いていくというのは、コミュニケーションに難のあるワルツには絶対に出来ない事。ゆえにワルツは、アステリアが無事に卒業出来るかを心配していたようである。
「それは……頑張るしか無いと思っています。もう、必死になって頑張ろうと思います!でも……」
「「「……でも?」」」
「どうしても引っ掛かっていることがあるんです。ワルツ様たちが掘ってくれた地下の空間には、他にもたくさんの獣人がいるのに、どうして私だけなのかな、って……」
なぜ自分だけが選ばれて、こうしてワルツたちと共に行動することになっているのか……。他の獣人たちと比べても、他に何一つ取り柄がないと考えていたアステリアには、ワルツたちの側にいられる理由が分からず、学生になっても良いのかと悩んでいたようだ。
そんな彼女が思い至ることがあるとすれば——、
「もしかして、私が狐の獣人だからですか?」
——ルシアとテレサも狐の獣人なので、その繋がりで自分が選ばれたかも知れない、ということくらい。世の中には、狐の獣人ばかりを集める特殊な趣味を持った貴族や成金がいるという話なので、ワルツにもそういった趣味があるのではないか、などとアステリアは考えていたようである。
対するワルツは即答した。
「いや、狐は好きだけど、別にそういうわけじゃないわよ?」
「き、き、狐が、狐が好き、じゃと?!」わなわな
「テレサ?いま、そういう場面じゃないから、ちょっと黙ってて貰える?」
と、狐好きのテレサを黙らせた後で、ワルツはアステリアに理由を説明した。
「貴女が一番若くて、行動力があったからよ?将来、獣人をまとめる立場の人物になると思ったから選んだ。そんな感じ」
「行動力?」
「だって貴女、私たちが公都を襲——ゲフンゲフン……初めて会ったとき、呆然としている他の獣人たちの中で、誰よりも先に私の問いかけに答えたじゃない。それを見て思ったのよ。あれは、相当肝が据わってないと難しいって」
「えっ、いや、そんなこと……」
「そんなわけだから貴女を選んだの。むしろ、貴女じゃないとダメだと思ったの。というわけで、期待してるわよ?」
そんなワルツの言葉に、アステリアは当初こそ目を丸くしていたものの、ワルツから向けられていた期待が本物だと分かったのか、顔を赤くして再び俯きながら——、
「……はい。頑張ります」
——と今にも消え入りそうな声を口にしながら頷くのであった。
そんなタイミングで——、
「ちょっといいかしら?」
——離れた場所で食事を摂っていたミレニアとその友人たちがワルツたちのところへとやって来る。




