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14.4-12 学生デビュー12

 昼食の選び方を聞き忘れるという大失態をしてしまったワルツだったが、幸い、昼食にありつけないという展開にはならなかった。食事を選ばなければならない者たちが他に3名ほどいたので、彼女たちの真似をして注文するだけで事足りたからだ。その他、約1名は、常に自分専用の食事を携帯しているのでわざわざ昼食を注文する必要は無かったのだが、学院に来て初めての昼食ということもあり、彼女も皆に合わせて注文することにしたようだ。


 その結果、問題が起こる。もちろん、ワルツだけでなく他全員が食事の注文方法を聞いていなかった、というわけではない。レストフェン大公国の国民であるハイスピアとアステリア以外の3人にとって、災難と言うべき自体が生じたのだ。


「美味しそうですね!」

「えぇ、料理長は一流のシェフを雇っているのよ」


「うわぁ……」どんびき

「な、なるほどのう……。これが異文化コミュニケーションなのじゃな……」げっそり


「……まぁ、あの赤いやつも、百歩譲って蟹だと思えば問題は無いはずよ?それ以外だって、エスカルゴとか、ナマコとか、ゲテモノ料理の中には美味しい食べ物がいっぱいあるわけだし……」


 食堂で提供している食事のメニューが虫料理やゲテモノ料理ばかりで、ワルツたち基準で"まとも"と言える料理が何一つ無かったのである。レストフェン大公国だけでなく、周辺諸国——より正確には、この大陸全体の国々においてメジャーな料理なのだという。


 理由は単純。この大陸の人々にとっては、魔物が強すぎて、簡単に捕獲出来るのは"虫"だけ。それ以外にタンパク源を安定的に確保出来ず、結果、ゲテモノ料理が発展したのである。


 正確に言えば、この大陸にいる魔物が特段強いというわけではない。魔力や体力の強さはミッドエデンがある大陸に生息する魔物たちと同じである。逆に人が弱すぎるというわけでもない


 ではなぜ、この大陸の人々は、魔物に遅れを取っていたのか。原因は魔物たちが使う魔法にあった。


 彼らは怪我を負うと、すぐさま回復魔法を使用して、体力を回復させようとするのである。その上、群れていることが多く、仲間が1体でも傷つこうものなら、遠距離から回復魔法をバンバンと飛ばしてくるのである。よって、魔物を狩ろうとしたときは、集団回復魔法(?)による回復速度よりも早い速度で魔物を傷付けなければならなず、大陸に住む人々にとってはそう簡単には狩ることができなかった、というわけだ。


 そのことを知らなかったワルツ、ルシア、テレサの3人は、揃ってゲッソリフェイスを浮かべつつ、どうにかまともと言えそうなエスカルゴ風虫料理を選び、カウンターで受け取った。そして、ワルツが先導する形で、(他の学生たちから敢えて遠い場所に)適当な机を選び、そこに腰を下ろした。


 そんな彼女たちのところに後からやってきたハイスピアに対し、ワルツは当然と言うべき質問を投げかけた。


「先生。この食堂に普通の料理は無いのですか?」


「普通?あぁ、ワルツさん方はレストフェン国民ではありませんでしたね。この食堂で扱っている食事は、この辺で"普通"に食べられている食事ばかりですよ?」


「えっと……例えば魔物の肉料理とか、穀物を使ったパンとかは?」


「魔物の肉を使った料理は高級料理なので、特別なイベントがあったときくらいにしか食べられません。パンは地域によって毎日食べられている場所もありますが、基本的には高級品です。輸送の際に小麦が虫に食われて、長距離を運ぶことができないので」


「(それ、虫料理の材料と一緒に小麦を運んでいるからじゃないの?)」


 果たしてそれが真であるか、偽であるかは不明だが、ワルツは心の中にそんな疑問を浮かべた。しかし、異世界に来てからというもの、異文化というものに幾度となく触れてきた彼女が今さらその程度の事で大きな反応を見せることは無く……。諦めてエスカルゴ風虫料理を口にすることにしたようだ。


「いただきます。……あっ、意外に美味しいわね……」

「ホント?……あっ、ホントだ……」

「…………」むしゃむしゃ


 ミッドエデン出身の3人は、会話を殆どせずに、黙々と食事を口にした。美味しくなかったというわけではなかったが、やはりその見た目には色々と考えるものがあって、黙って食べざるを得なかったのである。それも視線を下げながら。


 原因は、アステリアとハイスピアの皿の上に乗っていた料理にあった。具体的にどんな素材を使っているのかは伏せるが、蟹っぽい赤い足や、謎の甲羅、謎のつぶつぶなど、名状したがたい代物が並んでいたのである。彼女たちが食べている料理は、元々、どんな形状の魔物だったのだろうか……。そんな事を考えている内に、ワルツたちの間からは、完全に会話が失われたのであった。


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[良い点] 2560/2561 ・いいですね。美味しいのなら [気になる点] シェフの力は偉大なり [一言] 会話「じゃあの」
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