14.4-11 学生デビュー11
「ん?どうしたの?テレサ。なんか、尻尾がパンパンよ?虫刺され?」
「……いや、なんでもないのじゃ」
何でもない者が尻尾をパンパンに膨らませるのだろうか……。ワルツがそんな事を考えていると、ルシアが何かに気付いたらしく、何やら呟こうとした。
「そういえば、村にこの学校の生徒が来た時に、テレサちゃんって、たしか拡声器を使って——」
「おっとア嬢?それ以上、喋ってはならぬのじゃ」ガッ
「ふもっ?!」
ルシアが何か言う前に、慌てて彼女の口を塞ぐテレサ。この時、ワルツとアステリアは特に思い出すことも無かったらしく、仲が良さげな(?)テレサとルシアを見て、生暖かい視線を送っていたようだ。
一方、問題の"場面"を目撃していないハイスピアには、何が何だか分からなかったらしく怪訝そうな反応を見せていた。そんな彼女に対して、ルシアがフルフルと首を横に振ると、ハイスピアは興味を失ったように前を向いて……。そして、食堂について話し始めた。
「先ほども説明しましたとおり、ここが食堂です。大きなイベントが無い限り、朝昼晩と食事が提供されます。イベントの有無は、食堂入り口の掲示板に書かれているので、それを見てイベントがあるときはお弁当を用意してくるなど、各自対応して下さい」
「「はーい」」「うむ」「おっけー」
「では、さっそく食事の買い方について説明しますが、皆さん、学生証は持ってきましたか?今朝、学院長に渡されたと思うのですが、それを使って昼食を購入します」
というハイスピアの問いかけに、4人が一斉にカードのようなものをポケットから取り出す。
学生証は透明で、何やら幾何学的な図形と共に、学生の名前と学院の名前が書かれていた。レストフェン大公国では学生証が身分証となり、国内外の町に出入りする際にも使えるらしい。なお、ミッドエデン本国で使えるかどうかは不明である。
その際、1人だけ、間違えて違うカードを取り出してしまったようだ。見た目が似ていたせいか、間違ってしまったらしい。
「うん?あ、これ、冒険者ギルドのカードだった……」がさごそ
そんなルシアのカードを見て、ハイスピアが驚いたような表情を見せる。
「ルシアさん、冒険者だったのですか?」
「えっ?えっと……殆ど活動らしい活動はしてないですけど、一応、冒険者ギルドに登録してあります。もしかして……登録してたらダメだったでしょうか?」
「いえ、そういった規則はありません。ルシアさんくらいの年齢の子が冒険者をしているというのは珍しかったもので、すこし驚いてしまいました。ちなみに学生証もギルドカードも同じ魔道具を使用しているので、食堂で食券を買う場合は、どちらも使用する事が出来ます。こんな感じで」
ピッ!
「この魔道具にカードをかざすと、ギルドカードに登録されているゴールドが自動的に引き出されて、食事代の支払いが終わります。とは言っても、学生証をかざせば食事代はタダなので、学生がギルドカードをかざすメリットは無いですけれどね」
外部からやってきた冒険者など各種ギルド登録者の場合は、ギルドカードをかざせば食堂で食事が出来るようだ。
ハイスピアから説明を受けた際、ルシアとテレサは、自分のギルドカードにいくらのゴールドが入っていたかを思い出そうとしていたようである。しばらく使っていなかったので、いくら入金してあったのか覚えていなかったのだ。
それは、同じ冒険者チームに属するワルツも同じだったが、彼女の場合は、すこし事情が異なっていた。
「(あ、やばっ……。機動装甲の中に、ギルドカードを忘れてきたわ……)」
魔王アルタイルを封印する際、失った機動装甲と共にギルドカードを異相空間に置いてきてしまったことを思い出したのだ。
「(たしか、再発行費用が掛かるのだったかしら?っていうか、そもそも私、一文無しだから、再発行とか出来ないんだけれど……)」
再発行した後で費用の支払いは可能だろうか……。ダメなら、妹たちにお金を借りるしか無いのだろうか……。そんな不毛な事を考えた結果、ワルツはとても大切な事を聞きそびれてしまう。
「……といったように昼食を注文して下さい」
「はい」
「分かりました」
「分かったのじゃ」
「……えっ?ちょっ……」
ワルツが考え込んでいる間に、ハイスピアが昼食の注文方法を説明し終えてしまい……。ワルツだけが昼食の注文方法を知らないという状況になってしまったのだ。
いつもの展開なのじゃ。




