14.4-09 学生デビュー9
ワルツはハイスピアに見せる実験として、電気を使ったものを選んだ。内容は単純。水を電気分解して、そこに火をつけて、そして水に戻すだけの実験だ。……途中で面倒くさくなって、適当な実験をした、というわけではない。薬学と切っても切り離せない現象だったことも、電気分解を選んだ理由だったようだ。
この世界には魔法を使った錬金術がある程度は発達しているが、未だ電気を使った化学と言えるものは発達していないのである。恐らくは、電気が何たるかすら知られていないことだろう。
そんな状況の中で、薬学——錬金術の一分野における教授を務めるハイスピアに電気分解というものを見せたらどうなるのか。
「????」
「あの……ハイスピア先生?」
「????」
ワルツの呼びかけに応じなくなるくらい、夢中になってしまう。
ワルツが実験に用いた電気は、ルシアが雷魔法で作り出したものである。ルシアが教室にあった箸のような2本の金属棒を持って、それをビーカーに入れた水に浸けるだけ。どういうわけか、雷魔法を使う術者本人は感電しないらしい。
そんな適当な実験をハイスピアに見せたところ、ビーカーに穴でも開くのでは無いかと思えるほどにハイズピアが食いついて……。そのままビーカーに意識を張り付かせたまま反応が返ってこなくなった、というわけだ。
「お姉ちゃん、これ、いつまで続ければ良いのかなぁ?いい加減、腕が疲れてきたんだけど……」
「先にバッテリーを作れば良かったわね。でも、ここにある材料だけじゃ、バッテリーを作るの大変そうだし……」
ワルツがそんな事を呟くと、アステリアがハリセンの件に続き、またもやこんなことを言い出す。
「バッテリーですか?ありますよ?」ドンッ
アステリアが空間魔法で取り出したのは、地下空間の環境維持装置に使う予備用バッテリー。ワルツが数日前に作ったものの1つだった。
「何でこんなもの持ち運んでいるのよ……」
「えっと……あのまま地下空間に置いておくと、獣人の皆さんや、騎士の皆さんが悪戯するかも知れないと思って……」
「あー、なるほどね……」
悪戯されるくらいなら、四六時中持ち歩いた方が良い……。そんなアステリアの主張に、ワルツは納得したようだ。
その後、ワルツが電線も欲しいと呟くと、アステリアが電線も持ち運んでいたことが判明する。結果、ワルツはそれを使い、バッテリーを電気分解装置(?)に接続した。その際、電気分解が一時的に止まり、ハイスピアが我に返るのだが——、
「んなっ?!ななな……何ですかそれはっ?!い、いつの間に作ったのですか?!」わなわな
「いや、持ち込んだだけだし……っていうか今のやり取り……あぁ、見てなかったのね……」
——ハイスピアの興味のベクトルが変わり、今度はバッテリーと電線に向けられる事になる。
「まさかコレは……カミナリ魔法を実現するための魔道具?!」
「んー……モノは言いようだけど、結果的には同じかしら?魔道具じゃないけど……」
「すんごいです!これ、どうなってるのか、解体しても良いですか?!良いですね!解体します!」
「それは別に良いけど、濡れた手で端子と端子に触れると——」
「アバババババ?!」ビリビリ
「……感電するって言いたかったんだけど、手遅れだったみたいね……」
まるで漫画のように感電するハイスピアに眉を顰めながら、ワルツは彼女の事を電極から引き剥がした。
これが現代世界であれば大事故で、ハイスピアには後遺症が出る可能性も否定出来なかったが、ここは異世界。
「ルシア?頼むわ」
「うん」ドゴォ
感電して頭からプスプスと煙を上げていたハイスピアは、ルシアの回復魔法によって事なきを得ることになる。
「……はっ?!それで、これ、どうやって分解すれば良いのでしょう?」
「いま死にかけたばかりなのに、逞しいわね……貴女……」
死にそうになっても研究を続けようとするハイスピアを前に、ワルツはただただ呆れるしかなかったようだ。
なお、この時、ハイスピアに対して、ものすごく熱い視線を向ける者がいたようだが、彼女の話はひとまず置いておくことにしよう。




