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14.4-07 学生デビュー7

 途中から異様なほどにやる気満々になったハイスピアは、入門向けの実験をやめることにしたのか、大量の薬草や鉱石などの準備を始めた。その数およそ30種類。既に調合済みの薬品が入っていると思しき瓶も見受けられることから、原材料自体はもっと多いのだろう。


「えっと……先生?この体験授業って、確か入門向け……ですよね?」


 ワルツが戸惑いながら問いかけると、ハイスピアは大げさに首を横に振ってこう答える。


「最初はそのつもりでしたが、ワルツさんが錬金術の経験者というお話なので、急遽、ハイレベルの"お薬"を作ってみることにしました」


「……ちなみにどのような効果で?」


「心配しなくても大丈夫です。口に入れなければどうと言うことはありませんから」


「は、はぁ……(なにその、当たらなければどうと言うことはないみたいな言い方……)」


 ハイスピアは十中八九、危険な薬を作ろうとしている……。ワルツだけでなく、その場にいた全員が、何か危険な匂いを感じ取った。


 しかし、彼女たちはハイスピアを止めなかった。相手は薬学のスペシャリスト。どこかの"間延びしたしゃべり方をする人物"のように、愉快犯的に危険な代物を作るとは限らないからだ。


「では、良いですか?皆さん。これからとっても綺麗な魔法薬を作りますから、よく見ていて下さい」


「「「「魔法薬?」」」」


「えぇ、魔法薬です。どんな魔法薬なのかは……まぁ、作り終えた後で説明しましょう」


 そもそも魔法薬とは何なのか……。4人はそんな疑問を抱いたようだが、ハイスピアの方は常識だと思っていたらしく、特に説明すること無く調合を始めた。


 得体の知れない鉱石のようなものを数種類計量して、それを乳鉢で潰し、そこに透明な液体を入れて、満遍なくかき混ぜる。それを今度はビーカーに入れて加熱し、沸騰した後で濾過。その時点で、ビーカーの溜まっていた液体は緑色になっていたのだが、そこに新たに水のようなものを加えると、シュワーという気泡を発生させはじめた。


 ガスは無臭。ワルツがガスの成分を検出しようとするが、発生したガスは軽いのか、ワルツの鼻に入ること無く、どこかへと消えたようだ。恐らくはとても軽いガスなのだろう。


 それを再び加熱して沸騰させて濾過し、また透明な液体を加えると、今度は黄色になった。鮮やかな黄色だ。まるで塗料のようだと言っても良いかも知れない。


「(ちょっと何やってるか分からないわね……。見た目は、硫黄っぽいけど、硫黄が含まれていそうな材料は使ってないし、チタンやコバルトの化合物って線も考えられるけど、それにしたって何かおかしいのよね……。加えてるのって、ただの水よね?それともマナ?うーん……知ってるような知らないような……)」


 ワルツは、色が変わるという現象から、何が起こっているのかを推測しようとしたが、めまぐるしく色が変わるという物質について思い出せずにいたようだ。ただ、まったく知らないわけではなく、ただ忘れているだけのような気がする……。そんなことを考えている内に、彼女はハイスピアの実験に思わず魅入ってしまったようだ。


 他の3人も、カラフルに変化する液体に対して、不思議そうな視線を向けていた。とはいえ、不思議と思う以上には特に思う事もなかったらしく、ただ見とれているだけ。ワルツのように考え込むようなことは無かったようだ。


 ハイスピアは、4人の中で、やはりワルツの反応だけが異なっていたことに、嬉しそうな表情を見せていた。彼女にとっては、科学者のタマゴ——ならぬ、薬学師(?)のタマゴを見つけたようなものなのかも知れない。


 ちなみに、ワルツがそんなハイスピアの視線に気付いた様子は無い。それほどまでに彼女は、目の前で起こる不可解な現象に意識を集中させていたのだ。もう少しで思い出せそう……。そんな事を考えながら。


「工程はまだ半分です。次はこれを分離させます」


 そう言ってハイスピアが戸棚の中から取りだしたのは、ハンドルが付いた箱のようなもの。それを見たワルツは、箱が何であるのかを理解して、思わず呟いた。


「遠心分離機……?」


 その直後である。


「まぁ!」

「ちょっ?!まっ?!」


 ハイスピアは歓喜の声を。そしてワルツは驚愕の声を上げた。その内、ハイスピアは、ワルツが遠心分離機を知っていたことに対して喜んだがゆえ……。そしてワルツは——、


「こ、これ、ウランの濃縮じゃん?!」


——黄色い物体の正体について気付いてしまったがゆえに上げた声だったようだ。


イエロー☆ケーキ

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