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14.4-04 学生デビュー4

「もしかして自信ないのかしら?」


「えっと……困ったなぁ……(何て言えば良いんだろ……)」


 ミレニアからの追求を受けたルシアは、返答に苦慮していた。ミレニアたちでは相手にならない、と言うのが本音なのだが、それを言ってしまえば、ミレニアたちと仲良くなるのは絶望的になると考えていたのだ。


 しかし、今のうちに白黒付けておけば、後で自分の魔力の異常さがミレニアたちにバレたとき、大きな問題にならずに済むのではないか……。後になればなるほど、力がバレたときの痛手は大きくなるのではないか……。そんな事を考えていく内に、ルシアは"模擬戦には参加しない"という自身の発言に後悔を感じ始めていたようだ。


 このままでは拙い……。そう考えた彼女は、姉に視線だけを向けて助けを求めた。


 対するワルツは、ルシアの視線に気付いたらしく、その意味を考え始めた。普段の彼女なら明後日の方向に思考が向いてしまうのだが、流石にこの時は、困ったようなルシアの表情をミスリードしてしまう事はなかったようである。


 問題はそこからだった。ルシアが現状を切り抜けるために助けを求めているのは分かっていても、具体的にどう対処すれば良いのか、ワルツはこの時点でプランを考えていなかったのだ。その結果、彼女は考え込む。そう、考え込んだのだが、実時間では一瞬の事。高速思考空間の中で考える彼女の思考は、端から見れば、最初から答えが決まっていたと思えるほどの時間で完了する。


「……なら、私が相手をするわ?それも1人でね」


「……えっ?」


 ワルツの言葉に、ミレニアが耳を疑うような反応を見せる。


 実際、彼女は、ワルツの発言が理解出来ていなかった。ワルツは一行の中で一番背が低く、学院に入ったこと自体が間違いだと思えるような子どものような容姿。そんな彼女がまともに戦えるはずがない……。自身が年上だと持っていたミレニアには、ワルツが無謀なことをしようとしているとしか思えなかった。


 しかし、ワルツは言ってのけた。


「あなたたちだと弱すぎて、ルシアじゃ相手にならないのよ。というか、ルシアが戦うと模擬戦じゃなくなるっていうの?だから、手加減出来る私が戦ってあげるってわけ。私に少しでも触れる事が出来たら、私の負けだと認めてあげるわ?まぁ、無理だと思うけれど」


 ワルツはそう言ってスタスタと訓練場のフィールドの方へと歩いて行った。そしてある程度のところでくるりと踵を返し、ミレニアのことを手招きする。


「あの娘、本当にやる気?」


 ミレニアは険しい表情を浮かべつつ、ハイスピアの方へと視線を向けた。するとハイスピアは両手を上げて、いわゆるお手上げのポーズ。どうやら模擬戦闘を許可するつもりらしい。


 その後でミレニアは、自身の担当教員の方も振り向いた。今日は騎士科の男性教員が担当をしていたようだが、彼は新入学生の模擬戦飛び入り参加をいたく喜んでいたらしく、ウェルカム状態。止める気は無かったようだ。


 結果——、


「……分かったわ。でも私一人でやるわ」


——ミレニアは一人でワルツと戦うことを心に決める。


 対するワルツは、どこか残念そうな表情を浮かべながら、こう口にする。


「あれ?たったの1人?ここにいる全員が一斉に向かってきても良いのよ?ルシア以外なら負ける気はしないわ?それに……どんな状態であっても相手に対して全力を出して戦うっていうのが騎士道なんじゃないの?まぁ、私は騎士では無いから、どうでもいいんだけれどさ」


 と煽るワルツ。


 その時点で、いつの間にか模擬戦はすべて中断しており、その場にいた学生たち全員がワルツの煽りを聞いていた。その中に、血気盛んな男子がいたようだ。


「上等だ!やってやろうじゃねぇか!」


 馬鹿にされたと思ったのか、彼は木剣をかざすと、模擬戦の開始の合図も待たずに、ワルツの方へと突っ込んでいく。


 しかし——、


   ズドォォォォン!!


「ガハッ!」


——彼はワルツまで10mほどの場所で、突然、地面に沈み込んだ。ワルツが重力制御システムを使い、彼の周りだけ重力を1.5倍に増やしたのだ。


 そんな男子学生の様子には皆が唖然とした表情を向けていて、何が起こったのか分からないといった反応を見せていた。そんな学生たちの前で、ワルツは呆れたように口を開く。


「まったく、基本がなってないわね?そこの教師?ちゃんと基本を教えなさいよ。模擬戦を行うときは、まずお互いに礼をして、構えてから始めるっていうのがルールじゃないの?ルールを無視して戦闘を始めるなんて——殺して下さいと言っているようなものだと思って良いのかしら?」


 淡々と喋るワルツからは何かが滲み出ていたわけではない。しかしそれでも学生たち、そして教師たちは、ワルツから感じるものがあったようだ。生物が感じる直感。殺意にも近い、何か危機的なものを……。


「さぁ、始めましょ。痛くないように手加減してあげるから」にやぁ


 ワルツはそう言って虚空に手をかざした。すると彼女の手のひらには、長さ50cm程度の真っ黒い枝、あるいは雷と呼べるような、何か得体の知れないものが発生する。


   バキバキバキ……!!


 ガラスを連続的に割るような音を立てているのは、ワルツの得物である重力刀だ。極限られた領域に超重力を発生させて、空間ごとすべての物質を切り裂く超科学の刃である。


 対する学生たちはというと——、


「「「う、うわぁぁぁっ?!」」」


——やる気満々のワルツの姿を見て、一目散に逃げ出していった。ワルツに超重力を受けた学生も、騎士科の教師も、一緒に、だ。


 唯一、ミレニアだけはその場に残っていたようだが——、


「…………」どさっ


——彼女に戦意は無く……。酷く怯えた様子で、何か化け物でも見るかのような視線を、ワルツへと向けていたようである。


多分、ワルツは、ア嬢が助けを求めた理由を分かっておらぬのじゃ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 2552/2552 ・すれ違い〜。その発想はなかったです [気になる点] ワルツまだ強い。天使じゃなければフルボッコ [一言] ミレニアよ、服従か死か?
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