14.4-03 学生デビュー3
どの学科を選ぶのか、ほぼ決めていたワルツたちだったものの、最初の1日目はオリエンテーションの色が強く、ハイスピアの同行の下、各科の見学が行われることになった。どの科も、数日までの大規模なグラッジモンキーの襲来によって、昨日、一昨日と臨時休校になっていたのだが、グラッジモンキーたちの襲撃が途絶えて、姿も見えなくなったので、今日から授業が再開されているらしい。
一行が最初に向かうことになったのは、科の中でも最も生徒の割合が多い魔法科だった。ワルツとしては、せっかくの学校生活なので、ルシアたちには魔法科に入って欲しいと考えていた事もあり、どんなことをしているのだろうかと少しだけ期待していたようである。
彼女たちがやってきたのは訓練施設。先日、ルシアが入学試験で破壊した施設である。
そこには偶然と言うべきか、魔法科の学生だけでなく、騎士科の学生も授業を受けている様子だった。魔法科の学生も、騎士科の学生も、魔物たちと戦わなければならないという授業があるので、定期的に合同の戦闘訓練をしているらしい。今日がその戦闘訓練の日だったようだ。
そんな学生たちの中に、ルシアは知った顔を見つける。
「あっ!あの子、ミレニアちゃんじゃない?」
「ミレニア?あぁ、村にやってきて、難癖を付けてきた子ね?」
「難癖……んー、まぁ、確かにそうかも知れないけど……」
もう少し言い方があるのではないか……。ルシアが姉の発言を前に難しそうな表情を浮かべていると、ミレニアの方もルシアたちの姿に気付いたらしく、彼女はルシアたちに向かってコクリと会釈をした。ちょうど今は休憩中だったらしい。彼女はそのままルシアたちの方へと駆け寄ってくる。
「こんにちはミレニアちゃん」
「こんにちは……って、ミレニアちゃん?まぁ、いいけれど……。あなたたちも学院に入学したのね?」
「うん。今日からね」
「そう……じゃぁ、今はどの科を選ぶのか見学しているところかしら?」
「そうだよ?最初は魔法科の授業を見ようと思ってきたんだけど……もしかしてミレニアちゃんは魔法科?」
「えぇ。魔法科よ?今は魔法科と騎士科の学生が入り乱れてチームを組んで、模擬戦を行っているところよ?」
「ふーん」
ミレニアの視線の先では、4人1組みで戦うという実践的な模擬戦闘が行われていた。ただ、あまり戦闘には慣れていないのか、皆、腰が引けていて、まともに魔法も飛び交っておらず……。まるで子ども同士のチャンバラのような模擬戦闘が繰り広げられていた。
その様子を見たルシアは、率直に感想を口にする。
「皆、戦い慣れしてなさそうだね?」
それに対し、ミレニアは、少しだけ怒った様子で反論した。
「ああ見えても、魔物との戦闘経験はあるんだから!」
「あ、うん……そうなんだ……」
「その様子、信じてないわね?」
「いや、信じてない訳じゃないけど……」
魔物と戦闘経験があるのは普通のことではないのか……。ルシアはそう言いたかったようだが、それを口にしてはダメなような気がしていたらしく、曖昧な回答をしてしまう。
それがダメだったらしい。"けど"というルシアの言葉の続きは、一つしか無いからだ。
「まるで、魔物と戦った事があって当然って言いたげじゃない?」
「えっ……いや……」
「勝負よ!」
「はい?」
「どちらが強いか勝負!白黒付けようじゃない!」
ミレニアがルシアの失言に噛みついた。
理由はいくつか考えられた。ルシアは獣人なので元々下に見ている可能性、あるいはルシアは年下だというのに自分をちゃん付けして呼んでいたことに苛立ちを感じていた可能性などなど……。もしかしたらそのすべてかも知れない。
「ハイスピア先生。授業体験ということで、彼女たち……えっと……」
「ルシアだよ?」
「ルシアさんたちを模擬戦に参加させて下さい」
ミレニアがハイスピアに対してそう口にすると、ハイスピアは困ったような表情を見せながら、ルシアたちの方へと視線を向けた。ルシアたちはまだオリエンテーション中。入学初日から模擬戦に参加させるというのは前代未聞だったからだ。
ただ、ルシアたちが望むのなら、模擬戦をやっても良いと考えていたようである。あとは、教師として模擬戦を認めるか否か……。
しかし、彼女が問いかける前に、ルシアが答える。
「ちょっと私は遠慮しておこうかなぁ……」
そんなルシアの発言に、約2名が驚いたような表情を見せたのは仕方のないことか。
ア嬢が戦わぬじゃと?!的な。




