14.4-02 学生デビュー2
ワルツたちが入る初等学科にはいくつかの種類がある。
・魔法学院の花形とも言える魔法科
・騎士たちを育成する騎士科
・薬の知識に特化した薬学科
各学科共通して、一般教養を学び、その延長線として専門的な学問を学ぶ、という形だ。
それらの課程を卒業すると、今度は中等学部というものがあり、基本的には初等学科の者たちがエスカレーター式に進級する形になっている。学部の種類もまったく同じで、3種類の学部が存在しているという話だ。
中道学部を終えると今度は高等学課。高等学課では、いわゆる大学院のような専攻課程があり、ワルツが情報を欲しがっている自動杖についての研究は、この専攻課程の一つ"魔道具専攻課"の研究室で扱われているのだという。
初等学科に入学したワルツたちは、自由に学科を選べるらしい。そして、どの学科を選択しても中等学部、そして高等学課進級時に、再び自由に専攻を選べるのだとか。
「……と先日ガイダンスの際に説明したとおり、3つの学科があるので、どの学科を選ぶのか、今日中に決めて下さい」
ワルツたちは、4人しかいない教室に案内されて、そこで教師のハイスピアから説明を受けた。
ちなみに、入試の際に担当教員をしていたハイスピアが4人の担任教師になるらしい。学科は4人で別々になっても、一般教養の授業はハイスピアから受けるとのことだ。
「参ったわね……。ルシアは決めた?」
「お姉ちゃんに合わせようかと思ってたけど……」
「奇遇じゃの?実は妾もワルツに合わせようと思っておったのじゃ」
「私もです!」
「いやいや、ルシアたちは魔法科でしょ?私はちょっと事情があるから、魔法科は微妙だと思うのよね……。だから、騎士科か薬学科を狙っていたんだけど……」
「お姉ちゃん……すごく言いにくいんけど、どの学科も魔法を使うってハイスピア先生が言ってたよ?騎士科や薬学科だからといって、魔法を使わないわけじゃないからね?」
「う、うん。知ってるわよ?えぇ……。でも、魔法科よりはマシなんじゃないかな、って」
ワルツは魔法を使わなくて済む学科を選びたかったらしい。彼女自身は魔法を使えないからだ。騎士科辺りなら適当に剣を振り回していればどうにかなり、あるいは薬学科なら草木を摘んで混ぜていれば魔法が使えなくても問題は無い——そんなことを考えていたようである。
しかし、この学院は、名前の通り、魔法学院。魔法の使用が前提の学校なのである。どの学科も魔法を使えることが必須。だからこそ、入学試験の際に、魔法の実技試験があったのだから。
「先生。質問です」
「はい、何ですか?ワルツさん」
「騎士科で魔法を使う場合、どのようなケースがあるのでしょうか?」
「そうですね……一般的には、体力を強化するために筋力強化の魔法を使う事が多いです。あとは魔法を使いながら剣を振るうという方もいますが、個人の技量に左右されるので、それほどは多くはいません」
「じゃぁ、薬学科は?」
「薬草採取の際の鮮度保持を行うために氷魔法を使ったり、窯の温度を調整するために火魔法を使ったり……あと、薬のベースとなるマナを作る時にも魔法を使います」
「そ、そうなんですか……。随分と薬学の説明だけ詳しいんですね?」
「えぇ、私自身薬学の専攻ですから。あ、ちなみに先生のおすすめは——」
「あ、いえ、助言は大丈夫です。ハイスピア先生がなにを言わんとしているのかはよく分かるので」
既に脳裏から薬学科の選択肢は消えていたためか、ハイスピアの発言を途中で遮るワルツ。その結果、ハイスピアが酷く残念そうな表情を浮かべていたようだが、ワルツにそのことを気にした様子はない。
なにしろ、ここで申し訳ないなどと思って薬学科を選んだが最後、卒業出来る見込みは限りなくゼロに近付くからだ。テストの際には、当然、魔法を使った課題をパスしなければならないはずなのだから、魔法を使えないワルツが真っ当に試験に合格できる見込みは無いのだ。
ゆえにワルツは選択肢を決めていた。
「(よし、決めたわ!)」
あまり魔法を使わなそうな騎士科に行こう、と。騎士科なら魔法が使えないことを誤魔化して、どうにか試験をパス出来るはず……。彼女はそんな作戦を立てたようだ。
そう、この時までは……。




