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6序-22 テレサと水竜の円舞曲4

夕食前、テレサには日課としていた行動があった。

いや、正確には、夕食後にしていた日課というべきだろうか。

この日は、料理人(?)である狩人が会議のために遅くなってしまい、夕食が遅れていたのである。


というわけで、あまり遅くない内に日課を方付けるため、テレサは宗廟へとやってきた。

・・・要するに、墓参りである。


「怖いのう・・・」


既に薄暗くなった宗廟の中を祭壇に向かって歩くテレサ。


「・・・なら、朝に来れば良いではないですか?」


そして、怖いという理由で、付き合わされている水竜。


「いやの?妾、早起きが苦手じゃし・・・」


「・・・」


・・・単に、ずぼらなだけ・・・かもしれない。

とはいえ、王都にいる時は、毎日欠かさず墓参りを続けているのだが。


2人が宗廟の中を奥へと歩いて行くと、


『あ・・・』


石階段の頂上にある祭壇前に、巨大な影が鎮座していた。


「こんなところにおったのか、ワルツ・・・」


機動装甲の姿を見たテレサが呟く。


・・・しかし、いつもなら直ぐに反応を返すはずのワルツは、何故か今日は反応しなかった。


「ん?ワルツ?」


再び、テレサが声を掛けると、


「ひゃっ!?」


・・・どこからともなく、そんな声が聞こえたかと思うと、


「よいしょっ・・・ふぅ・・・あら、テレサと水竜。何か用かしら?」


何事もなかったかのように、機動装甲(ワルツ)が振り向いた。


「・・・?何かしておったのか?」


「え?えぇ・・・ちょっと、墓参りをね・・・」


そう言いながら、祭壇の方に視線を向けるワルツ。


「そうか・・・手間を掛けるのう・・・」


「そんなことはないわ。元はといえば、私が原因みたいなものだしね」


「まぁ、そう言うでない」


そしてテレサはワルツの隣に立つと、墓前で手を合わせた。


「父や母が逝ってしまったのは、どうにもならないことだったのじゃ。例え、お主が王都に現れなくとも、ベガやアルタイルによって、結局蹂躙されていたことじゃろうしのう。いや、むしろ、お主がいてくれたからこそ、王都の民は生きながらえることが出来たと言えるし、妾もこうしてお主と出会えることが出来たとも言えるのじゃ」


「・・・そう」


そんなテレサの言葉を聞きながら、ワルツも機動装甲の手を合わせて、祭壇に向かって(こうべ)を垂れた。

もちろん、水竜も一緒に。


「あ、水竜が悪いというわけではないのじゃぞ?」


「えっ?何故そこに儂が・・・?」


「あっ・・・いや、何でもないのじゃ・・・」


「?」


元アルタイルの部下であった水竜が変に気を揉んでいないか心配になったテレサだったが、水竜自身は全く気にしていないようであった。


「ところで、ワルツよ」


合わせた手を解いた後、ワルツの方を振り返って、テレサが口を開く。


「何かしら?」


「お主、実は弱点があったりしないかのう?」


「・・・無いわよ」


しばらく間をおいた後に、答えるワルツ。


『怪しい・・・』


「無いって言ったら、無いわよ!」


そしてワルツは、テレサ達に背を向けた。


「(・・・これは何か隠しておるな?)」


「(同感ですな・・・)」


完全に静まり返った宗廟の中で、ひそひそ話をするテレサと水竜。

おかげで、全くナイショ話になっていなかったが、それについてワルツがとやかく言うことはなかった。


「・・・ねぇ?急に弱点を聞くとか、何かあったの?」


「実はの?水竜にはとんでもない弱点があるのじゃ・・・」


「弱点?」


「うむ。のう、水竜?試してみてもよいかのう?」


「えっ・・・あれをやられると、地味に痛いのですが?」


「うむ・・・では、事前に水を用意して、痛みを感じたらすぐにかければよいじゃろう?」


「・・・あまり、やりたくはございませぬが、主様の手前、この水竜、身体を張りましょうぞ!」




・・・というわけで、宗廟内にあったお清め用の水を汲んだテレサが、水竜とワルツの待つ祭壇へと戻ってくる。


「話を聞く限り難儀ね・・・」


テレサが水を汲みに行っていた間、ワルツは水竜の弱点について、本人から話を聞いていたようである。


「ですが、これも主様と一緒にいるための通過儀礼と言うのなら、仕方のない事と諦める次第でございます」


そう言いながら、胸の前で握りこぶしを作る水竜。


「うむ。では、始めるとするかのう。準備は良いか?水竜よ」


「はい。よろしくお願いしますぞ?」


「では、早速・・・」


・・・そしてテレサは言った。


「全身がカピカピなのじゃ・・・」


(・・・どんな状況よ・・・)


疑問を浮かべるワルツだったが、


「全身がカピカピ・・・?」


テレサの声を繰り返す水竜。

彼女の脳裏では、身体がカピカピになった自分の姿が浮かんでいるのだろう。


・・・すると、


「うわぁぁぁぁ!!」


突如として水竜が藻掻き暴れ始めた。


「ちょっ、水竜?!」


その様子を見て、あたふたするワルツ。


「今、水をかけるのじゃ!」


バシャッ!


容赦なく、水竜の全身に汲んできた水を掛けるテレサ。


・・・だが、


「うわぁぁぁぁ!!い、痛い・・・!!」


水竜の乾きは癒えなかった・・・。


「?!み、水じゃ!もっと水を持ってくるのじゃ!」


そして、テレサが石階段を降りようとした。

そんな時である。


ボフンッ!


・・・そんな音がして、水竜の身体が弾け、辺りが煙に包まれる。


「・・・す、水竜の身体が・・・飛び散った・・・!?」


その様子を見て唖然とするテレサ。


「わ、妾のせいで、水竜が・・・水竜がぁ!!」


テレサが大粒の涙を、眼に蓄えていると、


「ふぅ・・・痛かったぁ・・・」


・・・そんな野太い声が聞こえてきた。


「・・・あら、水竜、元に戻っちゃったんじゃない?」


「おや?そういえば、長かった腕も足もありませぬな・・・」


辺りに漂っていた煙が掻き消えると、その中から巨大なサーペントドラゴン(水竜)が現れた。


「す、水竜っ!」


現れた水竜に、思わず水竜に抱きつくテレサ。


「済まなかったのじゃっ!もうやらぬのじゃっ!」


として、水竜の胸板(?)を鼻水だらけにするテレサ。

だが、水竜に彼女を責めるような色は無かった。


「いえ、儂としては、元に戻ることが出来ると分かったので、それはそれで大きな収穫があったといえますぞ?確かに、不用意に言ってほしくはありませぬが、今回に関しては儂も同意したので、それについてどうこう言うつもりはありませぬ」


「・・・うむ・・・ぐすっ・・・もうやらぬのじゃ・・・ぐすっ・・・」


「・・・はぁ・・・びっくりね」


全く驚いた様子が無いワルツ。


「で、水竜はどうするつもり?このまま宗廟に立てこもる?」


「いや、それは・・・できれば、人間の姿に戻りたいのでございます」


「でも、また水竜の姿に戻れるとは限らないわよ?」


「それでも構いませぬ。というか、このままここにいたら、討伐対象になりかねませぬぞ・・・」


つい数週間前の彼女なら言わなかっただろう言葉を口にする水竜。

どうやら、人の世界のルールを学んだらしい。


「・・・分かったわ。なら、エネルギアまで行って、保管してあるマナを取ってくるから、少しここで待っていなさい」


そう言って、ワルツは透明になると、宗廟から出て行った。


「・・・まるで墓守みたいじゃな?」


眼を真っ赤にしながらも、祭壇の間で蜷局(とぐろ)を巻く水竜の感想を口にするテレサ。


「・・・実は、儂らの世界では『墓』というものはございませんでした」


そう言いながら、水竜は祭壇の方に首を向けた。


「・・・生きとし生けるものは、皆、強き者に食べられ、そしてその強者もいつかは、次の世代の強者に捕食される。そんな生活の中では、墓を作っている余裕は無かったのです」


「ふむ。そういうものかのう・・・」


「ですが、人間の姿をして、人間の間で生きるようになって、色々、儂の考え方も変わりそうです」


「・・・まだ、変わってないのじゃな?」


「いや、そう簡単には変わりませぬ・・・」


そう言いながら、サーペントドラゴンの姿で苦笑を浮かべる水竜。


水竜が人の間で生きるようになってから、まだ1ヶ月も経っていないのである。

それでも、新しい生き方を拒絶すること無く、受け入れている彼女は、相当な適応能力があると言えるのではないだろうか。


2人がそんなやり取りをしていると、ワルツが戻ってくる。


「はいどうぞ」


バシャッ!


・・・一切、水竜に確認を取ること無く、マナを掛けるワルツ。

すると、


ボフンッ!!


と音がして、水竜が人の姿に戻った(?)。

ただ、残念なことに、返信した際に服が破けてしまったので全裸だったが。


「ふぅ・・・変身するときは、やはり身体が痛いのでございます・・・」


「そのうち、慣れるんじゃない?」


「いや、流石に、儂にもそんな適応力は・・・」


「なら、試してみる?」


「・・・もう、嫌です」


苦笑を浮かべながら即答する水竜。


「冗談よ」


「・・・はぁ・・・」


心の底から溜息を吐く彼女の様子を見る限り、見た目以上に堪えたらしい。


「おっと、もうこんな時間。狩人さんが夕食を用意して待ってるわよ?」


「もうそんな時間になったのか。早いのう」


「人の姿になって、一番幸せに思ったのは、食事が美味しいと思えるようになったことですかの」


そんなやり取りをしながら、水竜の予備の服を取りに行った後、3人は、食堂(エネルギア)へと足を向けるのであった。





食後。


「今日の晩ごはんも美味しかったが、狩人殿の作った食事にしては、随分、シンプルじゃったのう?」


「いつもが贅沢なのではないですかの?」


「うむ。それは否定できん」


「ですが、美味しいは正義ですな」


「うむ。それも否定できん」


2人は図書館まで戻ってきた。


「少々眠いが、コルテックスとの約束じゃ。残りの書類も方付けるとするかのう」


「そうですな。儂も絵本を方付けることにしましょう」


・・・


2人が机に向かってしばらく経ち、水竜が船を漕ぎ始めた頃・・・。


「・・・ん?なんじゃこれは?」


ミッドエデン白書に、何やら違う書類が混じっていることに、テレサは気付いた。


「・・・数式じゃな・・・」


「・・・んはっ?!・・・ど、どうしたのですか?テレサ様?」


・・・何に反応したのか分からないが、うたた寝していた水竜が目を覚ます。


「読んでいた書類の中に、このようなものが混ざっておったのじゃ」


「・・・一体、どのようなものですかな?」


水竜が、テレサの持っていた書類に眼を通す。

・・・すると、


「呪文ですな。全くわかりませぬ」


「呪文じゃなくて、数式じゃよ」


「数式?」


「うむ。あまり妾も詳しくはないのじゃが、数字を自由に操作するためのルールみたいなものじゃな」


「数字・・・くわっ・・・!」


数字という言葉を聞いた瞬間、頭を抑えて唸る水竜。


「ど、どうしたのじゃ?!まさか、弱点が・・・」


「じゃ、弱点・・・そうかも知れませぬ・・・。儂、数字を見ていると、無性に頭が痛くなってくるのでございます」


「・・・そ、そうじゃったか・・・」


所謂、数字アレルギーである。

急に眼を覚ましたのも、近くにアレルゲン(数字)があると感じ取ったせいだろうか・・・。

それはそれで、才能と言えるだろう。


「しかし、何の数式じゃろうな・・・」


テレサが書類を眺めていると、


「む?ページ番号?」


下の方にp.384と書かれていることに気づく。


「・・・もしかして、この報告書の中に、他にも同じような書類が紛れているのじゃろうか・・・」


そしてテレサは、片っ端からミッドエデン白書を開いていった。

・・・すると、


「おぉ。やはり、他にも紛れておるな・・・」


彼女が思った通り、別のページ番号が書かれた書類が白書の中に紛れていた。


「今度は、絵じゃな・・・」


テレサが見つけた報告書には、何やら、いびつな形をした船のような図が書かれていた。

他にも、


「デルタルール?」


何やら理論のようなものが事細かく書かれているページも見つかった。


その後も幾つもの書類を見つけていく。

そして30枚ほど書類が見つかった所で、p.001と書かれたページを見つける。

・・・まぁ、その頃には、何の書類なのかテレサは予想が付いていたのだが。


「・・・航空機設計入門・・・」


p.001には、シンプルにそう書かれていた。


「コルのやつ・・・これを報告書に紛れ込ませておったのか・・・」


道理で、さっさと書類を読めとうるさかったのじゃな、と合点がいったテレサ。


「・・・何の書類だったのですかな?」


先程まで、数字を見てぐったりとしていた水竜が、復活したのか、話しかけてきた。

・・・しかし、


「・・・いや、分からぬ」


p.001を隠して、知らない振りをするテレサ。

シルビアがこのミッドエデン白書に眼を通そうとした際、コルテックスはそれを拒否したのである。

テレサは、コルテックスが、自分以外に書類を見られることを嫌がっている、と考えたのである。


幸い、ここにいる水竜は、そもそも文字が読めないのである。

一緒に作業をした所で、テレサが情報を漏らさないか、水竜が天才的な才能を発揮して言葉を短時間で覚えない限り、書類の内容が漏れることはないのである。

あるいは、図書館に来た議員やメイド、執事たちが見かけるということも考えられなくはないが、テレサがここを離れる際には、禁書用の鍵付き棚に仕舞いこむので、棚を破壊しないかぎりは中を見ることは叶わないだろう。


「(なるほどのう・・・報告書の中に、少なくとも400ページ近い書類が紛れておるのじゃな・・・。コルテックスめ。報告書を覚えないかぎり、飛行機の作り方を教えぬということじゃな・・・)」


そう言いながら視線は鋭いままに、笑みを浮かべるテレサ。


「ふむ。やってやろうではないか!」


そして奮起する。

・・・その際。


「・・・おや?テレサ様。尻尾が増えておられるようですぞ?」


「ん?お、本当じゃ・・・3本に増えておるのう。・・・よく分からぬ尻尾じゃのう」


と言いつつも、増えた尻尾に気にすること無く、テレサは書類にのめり込んだ。


水竜の方も、


「(テレサ様が本気になったようですの・・・。ここは儂も頑張りますかな!)」


気合を入れて、絵本に視線を向けるのであった。




こうして、連日、図書館の一角に、何やら書類の山と絵本の山で出来た壁が作られることになるのである・・・。

壁を作った本人たちは気づくことはなかったが、後の王城七不思議の一つ・・・だったりする。


サイドストーリー月間(?)終了なのじゃ。

というわけで、次回から、魔王シリウスとの一件が始まる・・・かもしれないのじゃ。

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