14.4-01 学生デビュー1
「あれぇ……どうしてこうなったんだろ……」
入学ガイダンスを受けた新入生たちが去った後の夜の学院に、何かを後悔するような少女の姿があって、彼女は机の上にあったプリントを眺めながら、溜息を吐きつつ、文字通り頭を抱えていた。そこに何が書かれていたのかは不明だが、何か予想外のことがあったらしい。
「どうもこうも無いか……。そういうものだと割り切って、計画を見直さなきゃ。どうにもならなそうだしね。……この際、計画を明かして手伝わせる?いやー……リスクが大きいかな」
手に持ったペンの先をコツコツとプリントに叩き付けながら、彼女は思考を回転させて……。そしてしばらく経って、結論に辿り着く。
「……よし!ちょっと手遅れ感が否めないけど、ジョセフィーヌ様には消えて貰おっと。後はどうにか和解の方法を……あぁ、あの獣人の娘を使うのが良さそうね!」
彼女は誰に向けるでもなくそう呟くと、ニヤリと笑みを浮かべた。
◇
次の日の朝。ワルツたちは自宅のある地下大空間で目を覚ました。学院には寮もあって、全学生が寮に入っているという事実上の全寮制を敷いていたのだが、学院の外から通うことを禁じてはいなかったので、ワルツたちは自宅から通うことにしたのである。……というのは建前で、ワルツが寮に入ることを拒んだ結果だったりする。そんな彼女の意見に何故かテレサも便乗していたようだが、理由は不明だ。
目を覚ました4人は、地下空間に住む獣人たちや、騎士たちの挨拶回り兼散歩を済ませたあとで、食事を食べたり、支給された制服に身を包んだりして、学校に行く準備をした。ちなみに、支給された制服は人族向けの制服だったので、尻尾を通すための穴が開いていなかったものの、昨晩の内に1人ファッションショーを開催していたルシアが気付いていて、既に修正は済んでいる状態だ。
一通り準備を済ませた一行は、山の上にある学院を目指す。それも、昨日ルシアが作った長い橋を通って。
学院まで一直線に伸びる橋を進む4人は、前2人と後ろ2人という形で別れて歩いていた。その内、前を行く2人の話題は、制服についての話で持ちきりだったようである。ルシアだけでなくアステリアも、ファッションに興味があるらしい。
一方、ワルツとテレサは、ファッションというものに興味が無かったらしく、前を行く2人と少しだけ距離を取って歩いていたようだ。テレサの服の趣味は専ら和装にあり、ワルツの方は服など着られれば良いという程度にしか考えていなかったので、2人とも前のグループとは話題が合わないことを知っていたのである。
結果、ワルツとテレサは、ルシアたちの事を眺めながら、こんな会話を交わしていた。
「ア嬢もアステリア嬢もテンションが高いのう……ふぁ〜」
「逆にテレサは眠そうじゃない?もしかして興奮して寝られなかった、とか?」
「まさか。興奮するどころか、爆睡しておったのじゃ。今は、特に理由も無く、ただ眠いだけなのじゃ?」
「私の場合、眠らないから、その辺の感覚がよく分からないのよね……」
「ワルツの方はどうなのじゃ?学院に通うことを楽しみにしておったりするのかの?」
「そうねぇ……。地球だと、私たちガーディアンは人間じゃないから、学校には行けないじゃない?住民票とか無いし。だから、楽しみ……っていうか、どんな場所なんだろうって興味はあるわね」
「ふむ……」
「テレサはどうなのよ?」
「……ア嬢がどんな学生生活を送るのか考えるだけで、今から胃が痛いのじゃ」げっそり
「……楽しいことになるはずよ?きっと……」
"楽しい"とはいったい、どういう意味だっただろうか……。テレサは本気で考え込んだようである。これがもしも、外から見ているだけなら、楽しさの"た"の字くらいは理解出来たかも知れないが、これから先、テレサは、ルシアのストッパー役として暗躍しなければならないのである。そのことを考えた彼女は、胃が痛くて仕方がなかったようだ。
そんなやり取りを交わしながら、一行は長い橋を登っていく。すると、30分もしないうちに学院へと到着した。
4人が橋を渡りきった場所までやってくると、騎士たちや教師たちが唖然としながら彼女たちの事を出迎えたようである。今朝になってようやくルシアの作った橋に気付いたらしい。学院の近くに町と言えるものが無いので、皆、普段は学院の外に出ないらしく、そのせいで橋に気付くのが遅れたのだとか。
かくして一行(特にルシア)の学生デビューがスタートした。




