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14.3-42 中央魔法学院33

「……良いでしょう」


 学院長マグネアは、机の上に置かれたワルツたちの住民票(戸籍謄本?)をしばらく眺めてから、重い口を開いた。最後の最後まで、ワルツたちを入学させるべきか悩んでいたらしい。コルテックスが国家の代表を名乗りながら身元を証明する書類を持ってきたものの、海の向こうにあるミッドエデンという国自体が知られていない以上、正しい証明書なのかどうか、マグネアには判断が付けられなかったのだ。


 つまり、書類があっても無くても状況は同じ。それでもマグネアがワルツたちのことを受け入れようと考えた理由は不明である。コルテックスが出した書類が偽物では無いと確信できたのか、あるいは書類を持ってきたコルテックスが使っていた魔道具に心引かれるものがあったのか、それとも最初から合格させる気でいてワルツたちのことを試していたのか……。いずれにしても、ワルツたちは、マグネアの中にある合格のボーダーラインを越えることに成功したようだ。


「アステリアさん、テレサさん、ルシアさん、そしてワルツさん。当校への入学を許可します」


「「「「!」」」」


「よかったですね〜」


 コルテックスは自分の事のようにワルツたちの合格を喜ぶと、「それでは私はお(いとま)しますね〜」と言いながら、転移用魔道具を展開している扉の方へと歩いて行く。


 そんな彼女の行動は、あまりにさっぱりとしすぎていた。ワルツたちのことを学院に合格させるためだけに現れたかのようだった。


 ワルツとしては、そんなコルテックスの行動が理解出来なかったようである。何しろワルツとルシアは、現状、ミッドエデンから逃亡中(?)の身。コルテックスであれば、ワルツたちのことを強制的に連行して、ミッドエデンに連れ帰ることも出来るというのに、今のコルテックスにその気配は無かったのである。


 ゆえに、ワルツは問いかけた。


「随分と素直なんじゃない?なんか気持ちが悪いんだけど……」


 ワルツが問いかけると、コルテックスはその場でくるりと踵を返して、そして嬉しそうに返答した。


「私だって空気の1つや2つくらいは読めますからね〜。お姉様方の休暇を妨害するほど野暮ではありませんよ〜?それに、早く戻らないと、他の方々が気付いて、こちらに来てしまう可能性もありますから〜」


「……皆も私たちがここにいることを知ってるの?」


「いえいえ〜、知りませんよ〜?カタリナ様や狩人様、ユリアあたりがお姉様方の居場所を知っていたら、今頃、皆でここにやってきているはずです。まぁ、私が伝えずとも、時間の問題かも知れませんけれどね〜」


「えっ……それどいうk——」


一先(ひとま)ずは休暇をお楽しみください。私も私で、お姉様方のいないミッドエデンで、好き勝手やらせて貰いますから〜」


 そう言って『どこにでもドア』の向こう側へと消えるコルテックス。そして最後に——、


「妾〜?お姉様方のことは任せましたよ〜?」


——と言って、彼女は扉を閉じた。……と見せかけて——、


「あぁ、そうそう。ベア(ベアトリクス)様が、置いて行かr——」


——また扉を開いて何かを言おうとしていたのだが、テレサは扉に近付くと——、


   カチャリ……


「半ドアはよくないのじゃ」


——と言ってそっと扉を閉じた。まさに"そっ閉じ"である。


「……ベアちゃん呼ぶ?」


「……いらぬ」


「可哀想に……」


 と言いつつも、ルシアはこの場にベアトリクスを召喚しなかった。ただの気まぐれか、はたまた別の理由があったのか……。詳しい事情は不明である。ちなみに、ルシアとベアトリクスとは決して仲が悪いというわけではない。


 と、まぁ、そんなこんながあって——、


「さぁ、私たちの学生生活の始まりね!」


——ワルツたちはレストフェン大公国中央魔法学院に入学することが決まったのである。


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