14.3-41 中央魔法学院32
学院長室の扉を開けて一人の少女が入ってくる。頭の天辺にピンと尖った狐耳を持つ銀色の長い髪を持った少女。彼女は、テレサ——と同型の身体を持つコルテックスだった。どうやら、全世界の扉同士を繋ぐ魔道具"どこにでもドア"を使って転移してきたらしい。
そんな彼女は、高笑いをしながら学院長室にやって来ると、そこにいた顔見知りの2人(+1人)の姿を見て——、
「皆様、お久しb……ぶふっ!」
——突然なぜか吹き出した。理由は単純だ。
「ふ……ふふっ!!何ですか、何ですか〜?お姉様〜?そのちんちくりんな姿は〜」
「貴女には言われたくないわよ。だからコルテックスには会いたくなかったのよね……」
と言いつつコルテックスを睨んだ後で、テレサのことも睨むワルツ。その視線の意味するところは、コルテックスと同じように自分の事をちんちくりんだと考えているのではないか、という点と、コルテックスを呼んだのはテレサか、という2点といったところだろうか。
ワルツのジト目から何を言わんとしているのか察したテレサは、フルフルと首を振って、自身の潔白を訴えた。いずれの疑惑も、テレサには関係の無い事だからだ。その際、彼女が、自身の両手を10cmほど離した状態で、何かを必死に訴えていたのは、テレサとワルツの身長差が10cm程度しかないと言わんとしていたのか、それとも昼ご飯のメニューはサンドイッチが良いと言わんとしていたのか……。真相は闇の中だ。
そんなテレサの主張が通ったのか、通らなかったのか……。ワルツは疲れたように溜息を吐くと、コルテックスに対して問いかけた。
「貴女、なんで来たのよ。それと、どうしてここが分かったのよ」
ワルツが問いかけると、コルテックスはやれやれと言わんばかりに大げさなジェスチャーを見せながら、返答を始める。
「何をしにやって来たのかは後で答えるとして、お姉様方を見つけられた理由は大きく2つあります。妾が無線機を持って歩いているので、その逆探知をすれば簡単に見つけられるというのが1点目で〜」
「やっぱりテレサじゃん!」
「んなっ?!」
「そしてルシアちゃんほどの魔力を持っている方は、そうそういないので、強力な魔力を探せば自ずと見つかる、というわけです。いや〜、参りましたよ〜。まさかルシアちゃんを探すために強力な魔力を探していたら、封印されし古代兵器を誤って発掘して戦う事になってしまうとは〜」
「なにそのファンタジー……」
意味不明な発言だと思いながらも、理解出来なくはなかった様子のワルツ。というのも、彼女の脳裏には、元女神のデプレクサが作った数々の兵器の姿が浮かび上がっていて、デプレクサが大昔に兵器を封印したとすれば、それを古代兵器と言えなくなかったからだ。
だが、どうでも良いことだったので、そのままスルーして、再度問いかける。
「で、何しに来たの?機動装甲を失った私をあざ笑いに来た、って訳じゃないでしょうね?」
「テンポお姉様ならいざ知らず、私はそのことはしません。お姉様方は、この国の学校に通おうとしているのですよね〜?私はその身元保証人になろうとしてやってきたのです。……え〜?タイミングが良すぎる〜?壁にコルテックス、障子にコルテックスですよ〜?」
「全然ゴロも何も合ってないし、そもそも聞いてすらいないんだけど……」
そんなワルツの主張を無視して、コルテックスは学院長であるマグネアの机の前に立った。そしてそこでカーテシーをしながら挨拶する。
「初めまして、この学校の責任者様。私の名前はコルテックス。海の向こうにある国、ミッドエデン共和国の代表をしている者です」
対するマグネアも、突然のコルテックスの来訪に唖然としていた表情を改め、慌てて椅子から立ち上がって返答を始める。
「これはわざわざご足労頂き、ありがとうございます。私は当学院の学院長をしておりますマグネア=カインベルクと申します」
そんな挨拶を皮切りに言葉を交わし合うコルテックスとマグネアは、両方とも見た目が若く見えていて、まるで学生同士が会話しているかのようだった。一見する限り、国家のトップと学院のトップとの会話には見えない。
コルテックスは、会話を進めながら、アイテムボックスから3枚の書類を取り出した。そしてそれをマグネアの机の上に差し出す。
「こちらが3名の住民票〜……要するに、身元を証明する書類です」
「これはご親切に……。えー……氏名、年齢……えっ?年齢?」チラッ
「……なによ?」
「あ〜、年齢の部分は読み飛ばしてください。多分、お姉様は、その点、とても気にされていると思いますので〜」
「…………」ムスッ
「こ、これは失礼……。私も良く、勘違いされますのでお気持ちは分かります。えっと、次は……え゛っ……元王女?勇者候補?ま、魔神?!」
「誰?!誰よ!そんな適当な事を書いたの!」
住民票に職業を書く欄などあっただろうか……。特に深く考えること無く、マグネアの言葉を聞いていたワルツだったが、よくよく考えてみると何かトンデモない事が書かれているような気がしたらしく、慌てて住民票(?)の中身を確認しようとしたようだ。
だが、今のワルツには、コルテックスの力に抗う術は無く——、
「はいはい。今は大人のやり取りをしているところですから、お子様は待っていてくださいね〜?」ガッ
「お子様じゃないわっ!」ジタバタ
——羽交い締めにされたワルツは、コルテックスの腕の中で、地団駄を踏むしかなかったのであった。




