14.3-39 中央魔法学院30
そして次の日。今日も引き続き、ワルツたちは、自宅から学院へと通う。
朝起きるとルシアはいつも通りの調子を取り戻していたらしく、彼女に変わった様子は無かった。教室を飛び出して、そしてテレサに説得されて戻ってきた当初こそはどこか恥ずかしそうにしていたようだが、ワルツたちもこれと言って追求するような事はしなかったためか、無事に元の鞘に収まった、といった形だ。その際、アステリアがどこか寂しそうな反応を見せていたのは、生き別れになったという妹のことを思い出していたからか。
そんなこんなで一行は、学院に向かって歩いていたわけだが、到着までに何時間もかかる街道を進んでいた、というわけではない。これから先、毎日何時間もかかる距離を歩いたり、あるいはルシアの魔法で送迎して貰うというのは非合理的だという話になり、学院と自宅のある村とを繋ぐ近道を作ることにしたのである。直線距離で移動すれば、歩いて30分ほどなので、十分に登校可能だと判断したらしい。尤も、地底から地上に上がるまでの数百メートルの移動に30分近く掛かるので、合計して1時間ほどの道程になってしまうのだが、それでも十分に登校可能な時間だと言えるだろう。
というわけで——、
ズドォォォォン!!
——森の上に長い石の橋が架けられる。ルシアの建築魔法によって作られた頑丈な石橋だ。村を少し出た場所から学院まで、文字通り一直線の道が、ほんの一瞬のうちに作られる。
「はい、完成!」
「相変わらず良い腕しているわね……」
「は、はひぃっ?!」
「トロッコでも作れば、帰りは超速で戻って来られそうなのじゃ」
横幅20mのガードレール付き陸橋を歩きながら、一行はそれぞれに感想を口にする。ちなみに、学院に着いた際に、教師たちから誰がいつ作ったのか、という所謂5W1Hの質問については、分からない、と言い通すつもりでいたようである。
そして、程なくして4人は、学院へとやってきた。
正門は応急処置が施されて、ルシアが開けた穴は塞がれていたようである。昨日から今朝に掛けて、ジョセフィーヌの騎士たちが慌てて塞いだのだろう。未だ作業している者もいて、彼らはワルツたちを見つけた瞬間——、
ズサッ!
「「「おはようございます!ルシア様!ワルツ様!アステリア様!テレサ様!」」」
——と挨拶を投げてきた。
「おはようございます!」
「えっと……おはようございます……」
「お、おはようございます?!」
「おはようなのじゃ。しかし、何で妾の名前が最後なのじゃ……」
どうやら騎士の間で、ワルツメンバーの序列というべきものが出来上がっているらしく、最上位にいるのがルシアらしい。昨日、回復魔法(?)を受けた事や人工太陽などが影響しているのだろう。逆にテレサが最下位にいるのは、特に目立つ行動が無いからか。
騎士たちと挨拶を交わし、扉を開けて貰い、敷地内へと入ると、4人はそのまま真っ直ぐに学院長室へと向かった。その際、一行は、何名かの教師と思しき者たちに会い、挨拶を交わすのだが、どういうわけか生徒たちに会うことは無かった。宿舎と講義棟の立地条件的に会わないというのもあるが、それにしてもまったく誰にも会わないというのは、おかしな事だと言えた。
そのことにいち早く気付いたルシアが、姉たちに向かって問いかける。
「学院の中って、いつもこんな感じなのかなぁ?昨日もそうだったけけど、随分と静かだよね」
「そういえばそうね。学院っていったら子供たちが集まっている場所なんだから、もっとワイワイガヤガヤしていてもおかしくないと思うんだけど……」
「指導が行き届いていると言うことなんだと思います。レストフェン大公国の最高学府なんですから!」
「(……それはそれで胃が痛くなる話ね……)」げっそり
「どんな講義があるのか、楽しみだね!」
「う、うん。そうね……」
「…………」
ワルツとルシア、それにアステリアがそんなやり取りを交わしている中、約1名はだんまりを決め込んでいたようだ。どうやら彼女は、学生たちが少ない理由に気付いていたらしい。むしろ、身に覚えがあった、と言うべきか。
そのうちに、一行は、学院長室前に辿り着く。4人の中で先頭に立っていたのはワルツだ。彼女は大きく深呼吸をして、そして吐いてと3回繰り返してから、覚悟を決めた様子で学院長室の扉を——、
コンコンコン……
——と、叩いたのである。




