14.3-34 中央魔法学院25
魔法も弓も当たらない……。そんな状況に、攻める側の公都の兵士たちも、守る側のジョセフィーヌの騎士たちも、皆が一様に焦ってしまう。当たらないと分かっているのは自分たちが放った攻撃だけであり、相手の攻撃がどうなっているのかなど把握していなかったからだ。双方ともに、敵が自分たちの知らない特殊な魔法を使ったのではないかと疑い、より一層、警戒を強めていく。
……が、それも時間の経過によって、変わっていった。両方の攻撃が当たらないことに全員が気付き始めたのだ。
気付いた時点で、双方共に、戦闘パターンが変化する。ここまでは魔法や弓を使った遠距離攻撃がメインだったのが、剣などを使った近接戦闘へとシフトしていったのだ。
積極的に近接戦闘を始めようとしていたのは、公都からやってきた兵士たちである。彼らが戦闘で勝利するには、数の暴力で攻撃するのが最適だったからだ。
一方で、ジョセフィーヌの騎士たちにとっては、正面切って戦えば負けるのは確実。しかし、逃げる場所が無かったためか、これまた潔く接近戦闘を行おうと剣を構えて前へと出る。逃げたところで魔法が当たらなければ、囲まれて負けるのは確実なのだから、最期くらいは華々しく戦って散ろうと考えたらしい。
しかし——、
「「「ぬぉっ?!」」」
——双方があと5mほどの距離まで近付いたところで、彼らは見えない壁のようなものに阻まれて、それ以上、前に進めなくなる。
一体何が起こっているのか……。敵も味方も関係無しに事態を飲み込めないでいると——、
「ちょっと?!無関係の人がいるのに戦闘するって、頭がおかしいんじゃないかなぁ?」ぷんすか
「……お主らの流れ弾処理をさせられるこっちの身にもなって欲しいのじゃ……」げっそり
——戦場のど真ん中に、2人の狐娘が歩いてきた。
戦場に少女たちが歩いてくるなど本来、ありえないことだった。見るからに危険そうな戦場にノコノコと子供たちが歩いてくるなど自殺行為に他ならないからだ。
それゆえか、その場にいた全員が、すぐさま気付くことになる。理解不能な現象は、目の前の少女たちが原因なのではないか、と。彼女たちが原因だと考えれば、しっくりと来たからだ。
結果、公都から来た兵士たちは、攻撃の標的を狐娘たちに変えようとする。しかし、彼らが敵意を狐娘の1人に向けた途端——、
「あ゛ぁ゛?何か文句でもあるのかなぁ?」
ズドォォォォン!!
——超重力が掛かったように、全員が地面にへばりつくようにして倒れ込んでしまった。
例外はない。彼女たちが何者か知っていたジョセフィーヌの騎士たちも合わせて、全員が地面に叩き付けられる。何故か、無関係なはずの約1名も——、
「ちょっ?!妾も?!」
——と地面に吸い込まれていたようだが、まぁ、彼女の事は置いておくとしよう。
地面に叩き付けられて怪我をする者まで出る始末だったのだが、兵士たちに対する一方的な虐げはそれで終わりでは無かった。
「コレ、罰ね?」
狐娘の1人——ルシアが、そう言いながら一人の兵士を宙に浮かべると、彼に向かって強力な回復魔法を——、
ズドォォォォン!!
——と撃ち込んだのだ。魔法が当たった瞬間、彼の意識は装備と共に粉々に吹き飛び、ついでに真っ裸にされて、そして——、
ブゥン……
——と虚空へと消えていく。転移魔法だ。行き先は公都の城。具体的には、大公の部屋にあるテラスだ。
「次々行くよ?」
ズドォォォォン!!
ブゥン……
ズドォォォォン!!
ブゥン……
圧倒的な力を以て、一人一人、ゆっくりと消し飛ばしていく狐娘を前に、兵士たちは顔を青ざめさせた。自分たちが何と対峙しているのか、皆、理解出来なかったのだ。目の前の狐娘は人間なのか……。それとも自分たちは何か幻のようなものでも見ているのか……。兵士たちは、最初から最後まで、ただ1人の例外も無く、現実が受け入れられなさそうな表情を浮かべながら消えていった。
そして——、
「じゃぁ、次、こっちね?」
ズドォォォォン!!
——ジョセフィーヌたちの騎士たちに対しても、暴虐の限りが尽くされることになる。状況的には、公都の兵士たちと同じだ。違うのは、転移魔法を使われなかったことくらい。回復魔法と言う名の拷問魔法が、騎士たちの身にも襲い掛かった。
喧嘩両成敗なのは、まぁ、分かるのじゃ。
しかし……。




