14.3-32 中央魔法学院23
実技試験は皆が合格で終わった。ハイスピアが持っていた点数記入表のワルツの部分だけ何も書かれていなかったが、それでも一応合格らしい。
続いて、面接試験が行われることになった。担当試験官は、引き続きハイスピアで、場所は時計塔の横に建っている講義棟だ。そのうちの2部屋が試験会場である。
2室ある部屋の内、1つは待合室である。そしてもう一つが実際に面接試験を行う部屋だ。ハイスピアは、実技試験はの時と同じく、1人ずつ個室に呼んで、面接を進めていく。
ちなみに、落ちる可能性はゼロである。実技試験が終わった際に、ルシアがテレサの言霊魔法に激怒し、全員を合格させるようにと強請った結果だ。この時点で、実技試験を行っていないワルツが落ちる可能性はゼロになったと言えるだろう。まぁ、小心者の彼女が、それで安堵するかはまた別の話だが。
とはいえ、一応、形式だけの面接試験は実施されることになったようである。その中でも最初に呼ばれたアステリアは、凄まじい緊張に襲われていたらしく、壊れたロボットのようにカクカクと動いていた。彼女はテレサの言霊魔法のことをよく知らず、また、面接試験を受けようが受けまいが合格する事も知らなかったのだ。
そして何より、彼女には、根本的に分からなかった事がある。
「(メンセツ試験って……何をするの?)」
面接試験とは何者で、ハイスピアと面と向かって何をするのか、彼女はまったく知らなかったのだ。今まで奴隷として生きてきた彼女にとって、学業も面接も無縁の存在。面接とは、まったくの未知であり、初めての経験だったのである。
ハイスピアと共に一対一で顔を合わせることになったアステリアは、ガッチガチに緊張した状態で、ハイスピアの発言を待った。部屋に入って言われたことは、椅子に座るよう指示された事だけ。時間の経過と共に、アステリアの緊張がより一層、高まっていく。
面接が始まって、10秒が経ち、30秒が経ち、1分が経ち、5分経ち……。しかし、ハイスピアは一向に喋ろうとしない。ニコニコとした様子で、フラフラと揺れているだけである。
そこまで行くといい加減、面接を受けたことが無いアステリアでも、少しおかしいのではないかと思えてきたようである。10分が経過した頃、アステリアは問いかけた。
「あの……ハイスピア先生?まだメンセツ試験は始まらないのでしょうか?」
すると、ハイスピアから思いも寄らない返答が返ってくる。
「はい、面接は終わりです。次の方……テレサさんを呼んできて下さい」
「は、はあ……」
面接とはただ座っているだけのことを指す言葉なのだろうか……。それともハイスピアがおかしくなってしまっただけだろうか……。ハイスピアが言霊魔法の影響を受けているとは知らないアステリアは、不思議そうに首を傾げながらも、次の試験者であるテレサの事を呼びに行くことにしたようだ。
◇
そんなこんなで4人の面接が終わる。テレサ以外の者たちが、皆揃って納得いかなそうな表情を浮かべていたのは、やはりハイスピアによる無言の10分間に疑問を抱いていたからか。
そしてその無言の10分間というのは、アステリアに極度の緊張(?)をもたらしたとおり、ストレスフルな時間だったようである。当然、ワルツも例外では無い。
「も、もう無理……。面接とかもう二度としたくないわ……」げっそり
コミュニケーションスキルゼロのワルツにとっては、最早、精神的拷問と言えなくない10分間と化していたらしく、彼女は酷く憔悴しきった様子で、待合室の教室の机にぐったりと突っ伏した。
そんな姉に向かって、ルシアは満面の笑みを向けながらこう言った。
「これで私たちも学生かなぁ?」
「……そうね。(予想外の事態さえ起こらなければ)合格で間違い無いと思うわよ?」
「やったね!テレサちゃんとアステリアちゃん!」
「は、はいっ!」
と、嬉しそうなルシアとアステリアに対し、テレサは普段通りのジト目を向けつつ、忠告する。
「ただし、何も起こらなければ、の?」
「ちょっと、テレサちゃん?どうしてこのタイミングでそういう縁起の悪い事を言うかなぁ?」
「(よ、余計なことを言わなくて良かったわ……)」
と、ワルツが自分の発言を思い返して安堵した——その直後のことだった。
ドゴォォォォン!!
学院の正門がある方角から大きな音が響いてきたのである。




