14.3-29 中央魔法学院20
ルシアが放った回復魔法は、的に当たった瞬間、轟音を立てながら猛烈な光を周囲にまき散らした。その光景を例えるなら榴弾だ。それも核弾頭入りの。
その証拠に、的が融解して消し飛ぶ。的が猛烈な光に包まれた結果、的の表面温度が急激に上昇して融解し、挙げ句、蒸発して霧散し、爆発的に飛び散ったのだ。
周囲の空気も例外ではない。圧倒的な熱量を前に、空気も爆発的な膨張を起こし、衝撃波を発生させる。その結果、何が起こったのかというと——、
ドゴォォォォン!!
——施設の崩壊だ。
とはいえ、現象はそう単純なものではない。ルシアが放った回復魔法(?)によって、ミスリルと空気が衝撃波を生んだ瞬間に、ルシアの回復魔法(?)は消えたわけではなく、そのまま的を貫通して、後ろの壁に展開されていた対魔法無効化結界に当たって弾けていたのである。そう、消えたのではない。弾けたのだ。それも対魔法無効化結界と共に。
弾けた回復魔法(?)は、その密度を落として、ただの回復魔法に変化する。四方八方に向かって円形に広がるその様子は、緑色の花火のよう。ただし、綺麗だったのはその見た目だけで、施設の壁や的だったものの破片が衝撃波を伴いながら一緒に吹き飛んだ。
その様子を例えるなら、回復効果のあるショットガンのようなものだと言えよう。当たった相手を肉塊にしつつ、すぐさま修復を行って元に戻すという拷問魔法だ。
ハイスピアがそんなルシアの魔法の効果に気付いたかどうかは定かでないが、ワルツは爆風が広がっていく様を高速思考空間の中で眺めていて、一人焦っていたようである。
「(ちょっ?!ルシア?!ここの学生たちを殺すつもり?!)」
数秒後に何が起こるのか、最悪の事態を想定したワルツは、慌てに慌てた。
しかし、彼女の身体は動かない。機動装甲を失った彼女には、周囲の空間を歪めて、爆風を制御出来るほどの力は残っていなかったからだ。
もはやこれまでか……。ワルツが諦めようとしたとき、予想外の現象が生じる。
ブゥン……
鈍い色の壁が、施設の壁付近に現れたのだ。それも突然、何の前触れも無く、急に、だ。
それはルシアの自動魔法による土魔法の壁。発生条件は、施設の壁が自身の回復魔法(?)によって破壊された場合となっていた。
そんな壁に向かって、爆風や瓦礫などが当たる。すると魔法で作られた壁は軽々と拉げて壊れてしまった。
ところが、ルシアのオートスペルはそれで終わらない。壊れた壁のすぐ後ろに、再び壁を作り上げたのだ。
作っては壊し、作っては壊しと繰り返し、衝撃が徐々に緩和されていく。そしてルシアが最初に回復魔法を放ってから0.3秒後。衝撃は壁を越えられずに行き場を失った。短い時間に複数の魔法が高速に展開されるのは、ひとえにオートスペルのおかげである。
その直後、再びルシアのオートスペルが発動する。今度は重力制御魔法だ。分厚い壁に遮られて行き場を失った衝撃が、オートスペルの術者であるルシアの方に飛んでこないようにするため、自動的に超重力が発生したのだ。重力の方向は左右方向。結果——、
ズドドォォォォンッ!!
——どうにか原型を留めていた施設の壁が、飛び散った破片によって、広範囲に渡って破壊される。幸い、瓦礫が貫通する事は無かったようだが、今や施設は廃墟同然だ。
しかし。しかしである。ルシアの魔法はそれで終わりではない。こうなることはルシアの予想通り。
「あ、すみません。やっぱり建物が壊れちゃったので、いま直しますね?」
ゴゴゴゴゴ……!
壊れた施設を元に戻すことなど、ルシアにとっては朝飯前のことだった。土魔法を使って施設の壁を元通りに戻せば良いからだ。もちろん、施設中央に置かれていた的だけを除いてだが。
こうして、施設の見た目は元通りになり、ルシアの試験は終わったのである。
元通りに戻すまでが試験なのじゃ?




