14.3-28 中央魔法学院19
「……はい。テレサさんは……合格です……」ぼー
「……ちょっと、テレサちゃん?それズルじゃない?ズル」
ルシアは激怒——とはまではいかないものの、不満げな視線をテレサに向けた。的は破壊されずそのまま残っているのだから試験は無効ではないか……。そんなルシアの副音声が、テレサに襲い掛かる。とはいえ、テレサが攻撃魔法を使えないことをルシアも知っていたので、そう長々と追求するつもりはなかったようだが。
「ズルではないのじゃ。実力なのじゃ。そもそも、攻撃魔法が使えない者たちはどうやって試験を合格しておったのじゃろうのう?……っと、この話はここまでなのじゃ」
ボンヤリとしたハイスピアが、手元の採点表に結果を記入し終えそうだったので、テレサは話を強制的に終わらせる。言霊魔法の効果が自力で解除される可能性は無いものの、我に返ったハイスピアが別の理由でテレサを不合格にする、という可能性は否定出来ないからだ。
この時、テレサは——、
「(もしやこの教官、面倒くさがってテストをショートカットしておるのではなかろうの?)」
——と、すべての試験者が攻撃魔法を使えないのだからその救済策があるはずだ、と試験の矛盾に気付いたようだが、現状、問題は無かったためか、それ以上突っ込むような事はしなかったようだ。追求すれば藪蛇になる気しかしなかったらしい。
結果、あいうえお順で、次はルシアの番が回ってくる。
「では次、ルシアさん」
「あの……先生?壊すのは的だけですよね?」
「はい?もちろんです」
「施設まで壊したらダメなんですよね?」
「えっと……さきほども言いましたが、どんなに強い魔法を放ったとしても、魔法の効果を無効化するフィールドが施設の壁にかかっているので、施設が壊れることは絶対にありませんから、心配する必要はありません」
「そうですか……分かりました!」
ハイスピアのその話を聞いたルシアは、どこか安堵したような表情を見せた。逆に、他の3人が顔を青ざめさせていたことは、敢えていうまでも無いだろう。
◇ ハイスピア視点
施設まで壊す?いやいや、あなたじゃ無理よ。自惚れも甚だしいわ?
それがルシアさんに対する私の第一印象だった。今まで誰も壊したことが無いあの壁をそう簡単に壊せるのなら、わざわざ学院に来て魔法を学ぶ必要なんてないもの。もしも壊せたなら、軍から引っ張りだこだわ?一人で攻城戦を勝ち抜けるもの。
……でも今から思い返せば、自惚れていたのは自分だったのかもしれないと思う。あのとき私は、井の中の蛙。世界の広さを知らなかったとしか言いようがなかったのだから。
ブゥン……
だから……自分の周りしか知らない私には、目の前で起こった出来事が理解出来なかった。ルシアさんが虚空に手をかざすと、そこに大きな杖が突然現れたのだ。転移魔法?空間魔法?いえ……どれでもない。私の知らない魔法だった。
現れた杖は、ルシアさんの身長よりも大きくて、どう見ても分不相応としか言いようがない大きさだった。でも、彼女が使った転移魔法(?)を思い返せば、何となくしっくりした。……あぁ、この娘は、私が理解出来ない次元の魔法を使うのだから、これくらい大きな杖を使ったとしても何もおかしくないかもしれない、って。
でもね?ルシアさん。あなたが準備してるその魔法、何を放とうとしているのか、見ればすぐに分かるのだけれど、それ、的を攻撃するものではないわよ?
「あの……ルシアさん?」
思わず問いかけてしまったわ。だってそれ——、
「回復魔法を撃とうとしていませんか?」
——攻撃魔法じゃなくて、人を癒やす回復魔法だもの。
「えっ?回復魔法で的を壊しちゃいけないんですか?」
「えっ?壊せるの?」
「えっ?」
「えっ?」
何故か話が通じない。あぁ、そっか。この娘、頭が弱い娘なのね……。だって、回復魔法でミスリルの的を壊せるはずないじゃない?普通。
ゴゴゴゴゴ……!
えっと……回復魔法って、竜巻なんて起こったかしら?
ゴロゴロゴロ……!
これ、雷魔法じゃない?
っていうか何よこれ!回復魔法ってレベルの魔力じゃないわ!地面に転がっていた塵や石ころが宙に浮いて、空に暗雲が漂ってくるとか、悪魔か何かでも召喚しようとしているんじゃないの?!まぁ……悪魔や使い魔に的を攻撃させて破壊させた場合は、それはそれで合格なのだけれど。
そんな冗談のようなことを考えた末、私はようやく理解した。あぁ、この娘、本当に障壁を壊す気なんだ、って。そして、どうして回復魔法で攻撃しようとしているのかも。だって、建物を吹き飛ばしたら、大勢怪我人が出るかも知れないものね。回復魔法で建物を壊せば————って、止めなきゃ!このままだとトンデモないことになるわ!始末書ものどころの話じゃなくなるわよ!
「ちょっ——」
「じゃぁ、行きますね!」
チュィィィィンッ!!
ギュゥンッ!!
ルシアさんの杖から、何か小さな光球のようなものが放たれて、それが勢いよく的の方へと飛んでいった。えっと……回復魔法って何だっけ?気配は回復魔法そのものなんだけれど……。
ズドォォォォン!!




