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14.3-26 中央魔法学院17

 この日、新米魔法教師——ハイスピアは、朝から不機嫌だった。グラッジモンキーたちに襲われて、学院が大きな被害を受けたというのに、空気を読むことなく、入学試験を受けに子供たちがやって来て、しかも自分が試験の担当教員にならなければならないというのだ。それも、試験当日に。この時期に入学試験を受けに来るなど、どこのどいつだ、とハイスピアは咆えたかったようだが、しかし彼女は、レストフェン大公国の最高学府の教師。どうにかその鬱憤を飲み込むことに成功する。


 だからといって、彼女の鬱憤が消えるわけではなかった。気に食わない学生だったら、即刻、不合格にしてやろうとも考えていたほどだ。不合格にしてしまえば、入学手続きなども必要無くなるので、たとえ良い点数であっても落としてしまったほうがいいのではないか……。そんな悪魔の囁きが、脳裏で彼女の事を誘惑していたようだ。


 そして、いよいよ試験の時間がやって来る。試験内容は実技と面接。正確には、実技が通らなければ、面接をしても仕方がないので、実質、1次試験が実技で、2次試験が面接と言えた。


「(まったく試験をしないと学院長にバレるから、適当に試験をしちゃいましょっと。でも、どのタイミングで落とそうかしら?面接だけで落としたら、私の品性を疑われるし……あ、そうよ!実技試験をきびしくすればいいのだわ!)」


 教室に集まっているだろう子供たちのところへと向かいながら、ハイスピアは作戦を立てる。


 倉庫にミスリル製の(まと)はあっただろうか……。そんなことを考えているうちに、彼女は教室へと到着した。


「……よしっ!」


 ハイスピアは気合いを入れると扉を開けた。


   ガラガラガラ……


「あっ!来たわよ!」

「「!」」

「……zzz」


「…………」


   ガラガラ……ピシャッ!


 ハイスピアは開けた扉を閉じた。何か想像と違う光景が部屋の中に広がっていたらしい。


「(獣人が3人?あと、幼女が1人?なにあの子供たち……)」


 獣人が学院に入試を受けに来るなど前代未聞。ゆえに、ハイスピアは考え込む。


「(学院長は何を考えて私に彼女たちの事を任せようとしたのかしら?)」


 学院長には何か考えがあって、自分に入学試験を任せようとしたのではないか……。果たして、考え無しに彼女たちの事を不合格にしても大丈夫だろうか……。それとも、獣人が試験を受けに来たからこそ、新米教師である自分に担当させたのか……。


「(……あー、眠い!)」


 深く考えようとしたハイスピアだったが、最近の忙しさのあまり、頭が上手く働かなかったようである。結果、彼女は深く考えること無く、当初の予定通り、厳しく試験をすることにしたようだ。


  ◇


 再び教室に入ったハイスピアは、淡々と試験の説明を行い、一行を連れて1次試験の会場である訓練棟へとやってきた。


 大きな運動場と併設された訓練棟は、"棟"という名前が付いているものの、天井は無く空が見えている状態の施設だ。その様子は、一見するとコロシアム。中央のグランドを取り囲むように、観客席が設置されていたのだ。


 そんな観客席の下には、大きな扉が設置されていた。もしもコロシアムだとするなら、そこから魔物が出てきそうな雰囲気である。しかし、その見た目とは裏腹に、用途は違うらしい。


 ハイスピアは大きな扉(魔道具)の前に立つと、そこに魔力を流し込んで——、


   ゴゴゴゴゴ……


——と開いた。そして、彼女は中から人と同じくらいの大きさの的を取り出すと、それをコロシアムの真ん中まで引きずっていき、地面に固定する。それも、単に固定するのではなく、絶対に位置がずれないように固定魔法を使ってだ。魔法が当たったときに転がっていくと、再設置が面倒だからだ。


「ではこれより実技試験を始めます。どんな魔法を使っても良いので、50m先に設置したあの的を壊してください。壊せた人だけが、面接試験に進む事が出来ます。ちなみに、この施設の壁には魔法を無効化する術式が展開されているので、魔法を外したとしても壊れることはありません。安心して魔法を撃って貰って結構です」


 ハイスピアはそんなことを言いつつ、出そうになっていた欠伸を噛みしめた。試験を早く終わらせて本来の業務に戻りたい……。それが彼女の本心だ。本来の試験であれば15mでいいところをわざわざ50m先に的を置き、的自体もミスリル製。当てることも至難の業だが、壊すこと自体がほぼ不可能だという時点で、彼女の考えが覗えると言えよう。


「では最初、アステリアさん」


「は、はい!」


「(その辺によくいる獣人ね。でも獣人は魔法なんて使えないでしょ。しかも、あの距離でミスリルの的を壊すとか……もしも魔法を使えたとしても、試験をやるだけ無駄ね)」


「では行きます!」


 アステリアはそう言って、ワルツが作った偽の杖を握り締めると、その杖の先を的へと向けたのである。


わくわくって、何じゃろうのう……。

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