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6序-20 テレサと水竜の円舞曲2

「失礼するのじゃ」

「失礼する」


テレサと水竜が医務室の扉を開けると・・・


「うわぁぁぁ・・・リアぁぁぁ・・・」


・・・何故か勇者が、集中治療室の窓に張り付いて泣いていた。


「・・・勇者様、迷惑です。窓から離れて下さい」


「また俺からリアを無理矢理離すんだろぉぉぉ・・・」


「離しませんよ・・・。このままだと気が散って作業にならないですから、この部屋から出てって下さい!」


「もうだまされないぞぉぉぉ・・・」


中々医務室から出ていこうとしない勇者に、ジト目を向けるカタリナ。


「・・・分かりました。強制排除します」


「へ?」


ガシュー!


そして何やら殺虫剤の入ったガス缶(アー○ジェット)のようなものを勇者に向けると、容赦なく噴射した。


「ゴホッゴホッ・・・何す・・・」


バタ・・・


「・・・zzz」


そして突如として勇者が寝始める。

どうやら、カタリナは睡眠ガスを噴射したらしい。


「全く・・・次、言うことを聞かないと、実験台にしますからね?」


寝ている勇者に、最後通告をするカタリナ。

だが恐らく、彼女の言葉は勇者に届いていないことだろう・・・。


「・・・水竜よ?」

「・・・皆まで言わずとも分かります」


そして2人は振り返って、そっと医務室から(にげ)ようとした、そんな時である。


「お二人共、珍しいですね。こんなところに何か御用ですか?」


・・・カタリナに見つかってしまった。


「い、いや、何でもないのじゃ。のう?水竜?」


「え、えぇ。そうでございますとも。私達は通りがかっただけのこと。特に用事はございませぬ」


必死になって、ごまかそうとする2人。

だが、そのことが逆に、


「・・・では、用事も無いのに私の妨害をしにきた、ということでしょうか?」


カタリナの(かん)に障ったらしい。


ゴゴゴゴゴ・・・


彼女は、ニコリ、とまさに天使のような笑みを見せているが・・・テレサと水竜にとっては、そんな笑顔が別の何かに見えていることだろう。


「ちょっ、そ、そんな笑顔で妾たちのことを見ないで欲しいのじゃ・・・!」


「よ、用事がないわけではないのでございます!」


「そうでしたか・・・。では、どのような用事があるのでしょうか?」


ゴゴゴゴゴ・・・


「え、えっと、その・・・か、カタリナ様は何をしておられるのかと・・・」


『えっ?』


水竜の言葉に2種類の疑問の声が返ってくる。

テレサの場合は、『そうではないじゃろ!』という意味合いで、カタリナの場合は、『あぁ、そういえば教えていませんでしたね』という意味合いだろうか。


そして、カタリナが口を開く。


「・・・リアの意識が戻らない事は知っていますか?」


「うむ」


「リアとはこの娘のことでございますか?」


集中治療室のベッドの上で眠っているリアを指す水竜。

なお、水竜がワルツメンバーに加わったのは、リアをメルクリオから救出した後のことなので、意識のあった頃のリアの姿を彼女は知らない。


「そうです。実は、彼女が意識を取り戻さないことにはちょっとした理由がありまして・・・」


「魔力生成疾患じゃったか?」


「はい。・・・水竜さん?魔力生成疾患に関する詳しい話は後でテレサさんに聞いてくださいね」


「えっ・・・分かりました・・・後でお願い致します、テレサ様」


「うむ。任せておくのじゃ」


そしてカタリナは、一度考えこむ素振りを見せてから、説明を始めた。


「実は、このままだと、リアは確実に死んでしまうんです」


『えっ・・・』


カタリナの突然の暴露に、眼が点になるテレサと水竜。

そして同時に、地面で寝そべっている勇者が、何故騒いでいたのかを悟った。


「もちろん、そんなことにならないよう手を尽くしているところです。お二人は遺伝子(DNA)のことをご存知・・・ないですよね?」


『いでんし?』


「はい。人や魔物、植物に至るまで、すべての生物が身体の中に持つ、生命の設計図のようなものです」


そう言いながら、二重らせん型の模型を手に取るカタリナ。

そして、塩基対の1箇所を指差しながら言った。


「これをものすごく小さくしたものが、1つ1つの細胞の中に31億個も含まれているんですよ」


「細胞はワルツに教えてもらったが・・・あの小さい中に31億もか?想像できんのじゃ・・・」


「そうです。そしてこの遺伝子が一人ひとり異なるために、見た目が違ったり、病気になったり、男性と女性に別れたりしているんです」


『・・・』


カタリナの言っていることが分からなすぎて、新手の宗教か何かなのではないかと思えてくるテレサ。

そして、同じく、全く意味が分からない様子の水竜。


「まぁ、理解できなくて当然なんですけどね・・・」


カタリナはそう言って苦笑した。

彼女はつい数ヶ月前までは神を崇める職業(僧侶)をやっていたというのに、ワルツに教えられる様々な知識や情報は彼らの存在を真っ向から否定するものばかりなのである。

カタリナの頭はそれほど固くないとは言っても、相当のショックを受けたことは言うまでもないだろう。


「それで、この設計図を書き換えて、リアの魔力生成疾患を治してしまおう・・・もっと具体的に言うなら、漏れ出る魔力よりも更に多くの魔力を生成できるような身体にしてしまおう、というのが、今のところの目標ですね」


『・・・』


カタリナの最後の言葉だけは2人にも理解できた。

・・・要するに、人体改造である。


とはいえ、そこまでしないと、リアが元の生活を取り戻すことは出来ないのである。


「・・・リア殿は、大丈夫なのじゃろうか?」


色々な意味で心配そうな視線をリアに向けるテレサ。

だが、カタリナは努めて明るく言った。


「えぇ。大丈夫。絶対に助けてみせます!」


「そうか。妾からもよろしく頼むのじゃ」


「儂からもお願い申し上げますぞ」


カタリナに頭を下げるテレサと水竜。

そんな彼女達に、カタリナは苦笑を浮かべた。


「・・・さて、私はこれからワルツさんに与えられているタスクをこなさなくてはならないので、隣の部屋に戻ります。他に用事は無いですか?」


「おぉ、そうじゃ。お主、ワルツの居場所を知らぬか?てっきりここにいるものと思っておったのじゃが・・・」


「ワルツさん?・・・えっと、工房のメンテナンス室の方ではないでしょうか?」


「メンテナンス室・・・コルテックス達のための施設じゃったか?」


「はい。何か、成長が著しくて、調整が必要らしいですよ?」


「・・・ふむ、そうか・・・」


と言いつつ、自分の身体を見下ろすテレサ。

・・・どうやら、これ以上の成長は望めないようである。


「では、行きますか。テレサ様」


「うむ。邪魔したのう、カタリナ殿」


「いいえ、勇者様に比べたら、どうということはありませんよ」


それだけ言うとカタリナは、隣の集中治療室兼滅菌室の中へと入っていった。


『・・・』


「・・・怖かったのう?」


「・・・怒らせたらダメな人、というやつですな」


地面に転がる勇者に哀れみの視線を向けるテレサと水竜。


「まぁよい。とにかく、妾たちはワルツの弱点を探しに()こうか」


「勇者殿は放置でもよろしいのですかな?」


「うむ。いつものことじゃ。そのうち、剣士たちがやってきて、方付けるじゃろ」


・・・というわけで、勇者をその場に放置したテレサと水竜は、工房内にあるホムンクルス用メンテナンス室へと足を運ぶのであった。

日本列島南下中じゃよ。

もちろん、鉄の馬車で、じゃ。

ん?何じゃ主殿?そんなことしたら全国区のニュースになる?

何を言っておるのじゃ・・・

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