14.3-23 中央魔法学院14
「……なるほど!文字ってこんなにも簡単に覚えられるんですね!」
「あ、終わった?じゃぁ、これ危険だから燃やすわね?」ボッ
「ちょっ?!も、勿体ない!」
誰でも文字が覚えられる書物。その価値の大きさに気付いていたアステリアは、目の前で燃やされた書物を前に、酷く残念そうな表情を見せていた。
しかし、ワルツとしては、勿体ないと思いながらも、人の記憶を破壊する恐れのある書物をいつまでも手元に置いておく訳にはいなかったらしく、躊躇することなく書類を燃やしてしまったようだ。もしもルシアや他の者たちが間違えて目を通すような事があれば、大問題になるのは確実だからだ。
「この書類は、本来この世界にあってはならないものなのよ」
「……ま、まさか……マスターワルツは神だったのですk——」
「んなわけないじゃない。ほら、馬鹿なこといってないで、明日に備えて寝るわよ?」
あまり触れられたくない話題だったためか、ワルツはアステリアの問いかけを皆まで言う前に遮った。ここはミッドエデンではなく、レストフェン大公国。現代世界の技術について、多くを語るつもりはないのだから。
対するアステリアは、拒絶される形になってしまい、大人しく寝るしか選択肢は無くなってしまう。
「はい……でも…………いいえ、なんでもありません」しゅん
アステリアはそう口にすると、耳と尻尾をシュンと萎れさせて、寝る支度を始めた。彼女としては、ワルツに何かを聞きたかったようだが、寝るように捲し立てるワルツを前に、何も言えずに言葉を飲み込んでしまったようである。
「さぁ、ルシアも寝る時間よ?」
「うん。明日って何時までに学院に行かなきゃならないんだっけ?」
「そういえば何時だっけ?」
「……9時なのじゃ。できれば、30分前には到着して、試験の準備はすべきかの」
「だってさ?」
「そっかぁ……試験かぁ……寝られるかなぁ……」
といいつつ、寝る準備を始めるルシア。ちなみに彼女は、イベントの前日に眠れなくなるタイプではない。
その一方で、テレサには、寝る準備を始める素振りは無かった。ルシアの背中を見送った彼女は、ワルツの口ぶりからある事に気付いていたのだ。
「……ところでワルツ。お主、夜になってから、どこかに出かけるつもりなのじゃな?」
ワルツはテレサにだけ眠るようには言わなかった。それ即ち、外出に付き合えということ。
実際、テレサの予想は当たっていたようだ。
「ちょっとね。上の村まで用事があるのよ」
「……もしやそれは、今日でなければいけない予定かの?」
「そう聞くって事は、私が何をしようとしているのか、分かってるんじゃないの?」
「……むふふふ」にやぁ
「ちょっと、何考えているのか顔を見た瞬間に分かるような反応見せるの止めてくれない?そういうんじゃないし、そもそも、生前のテレサの性癖なんて、今の貴女、引き継いでなんかいないでしょ?」
「……それを認めたら、私はテレサではなくなってしまいますよ〜?……というわけで、デートなのじゃ?ワルツ!」
「なんか……すごく認めたくはないんだけど、事情を知っていると突っ込みにくいわね……」
今のテレサがどういう存在なのか、よく知っているワルツは、大きな溜息を吐いて、テレサの額に——、
ベコンッ!
「あうちっ!」
——とデコピンをお見舞いした。にもかかわらず、テレサが大喜びだったことについては言うまでもないだろう。
そして2人は、ルシアとアステリアが眠りに就いた後、地上の村へと繋がる階段を上がっていったのである。




