14.3-21 中央魔法学院12
学院長との面会を終えた後、ワルツたちは一旦ジョセフィーヌたちと別れて行動することになった。ジョセフィーヌには、国中の貴族たちと連絡を取りあって、レストフェン大公国が今どういう状況にあるのかを把握しなければならないという目的があり、学院に来て早々、信頼出来る関係者たちを集めて、情報交換をすることにしたのだ。
というわけで。部外者であるワルツとルシア、テレサ、それにアステリアの4人は、女学生のミレニアに案内される形で学院の中を歩き回ることになった。
学院長室前の長い廊下を歩き、時計塔を通り、講義棟や食堂、鍛錬場、研究棟、と次々に建物を案内される中、ルシアがふとした疑問を口にする。
「ところでさ、入試って何やるのかなぁ?」
その疑問は、一行を案内をするミレニアへと向けられていた。ルシア以外の3人も、皆、同じような疑問を持っていたらしく、ミレニアへと一斉に視線を集中させる。
「1年生から入る場合は面接と実技です。途中の学年から入る編入学の場合は、もしかすると筆記試験もあるかも知れませんが……ちょっと私は把握していないで、詳しくは分かりません。編入学はアステリアさんだけですか?」
と、4人の中で一番背の高かったアステリアに質問を投げかけるミレニア。
するとアステリアは、豆鉄砲を食らったハトのような表情を浮かべた。
「えっ?私がへんにゅう……?」
編入学とは何か……。アステリアには、そもそも言葉が理解出来なかったらしい。
「その話なんだけど、多分、全員が1年生から入ることになると思うわ?アステリアもいきなり編入させられたら、授業について行けないでしょ?」
「!」こくこく
「でも困ったわね……。早く研究したいのだけれど、研究室に入るのに何年も時間は掛けてられないのよね……。飛び級ってあるの?」
「もちろんありますよ?単位さえ取ってしまえば飛び級も可能です。ただ、簡単な事ではありませんけれどね」
「まぁ、そりゃそうよね。本来であれば時間を掛けて習う内容を短時間で詰め込むわけだし……」
自動杖の技術を得る立場になるまでに、どのくらいの時間が掛かるのだろうか……。そう考えるワルツとしては、機械の頭を持っていることを生かして、筆記試験を突破しようと考えていたようである。所謂、チートだ。
「(問題は実技の試験よね……)」
入試からして実技試験がある——つまり、魔法の試験があるのだろうと予想して、ワルツが内心で頭を抱えていると、彼女よりも遙かに頭が重かった人物が口を開く。
「あの……私、文字が読めないのですが、試験……大丈夫でしょうか……?」
アステリアだ。最近まで奴隷をしていた獣人の彼女に文字を学ぶ機会は無かったらしく、文字が読めないらしい。
「「「「えっ」」」」
まさかの事実にワルツたちは耳を疑ったようである。特に、学院の実情を知っているミレニアとしては——、
「それはちょっと……」
——入学するのは難しいのではないか、と思えてならなかったようだ。
ただ、事情を知ったワルツとしては、大した問題だとは思わなかったようである。
「あぁ、大丈夫、大丈夫。紙とペンさえあれば、試験前の30分くらいで文字なんて簡単に覚えられるから安心して?」
「「「「……えっ?」」」」
「それはお姉ちゃんだけじゃない?」
「ううん?そんなことないわよ?裏技があるのよ。裏技。誰でも簡単に記憶する事が出来る、とびっきりの裏技が、ね」
と言って、にやっ、と笑みを浮かべるワルツ。そんな彼女の反応に、アステリアがブルッと身震いしたのは、自分が実験動物にされるような気配を感じたからかもしれない。




