14.3-20 中央魔法学院11
ジョセフィーヌによる説明は続き、彼女は学院で何をしたいのかを学院長カインベルクへと伝えた。具体的には、学院を通じて国中の貴族たちと連絡を取り合いたいこと。そして、迷惑を掛けるので学院を拠点とはせずに、麓の村に拠点を置くこと。
「学院の外に拠点を置かれるのですか?」
「えぇ。拠点としてちょうど良い場所を手配出来まして、残りの近衛騎士たちはそちらで待機させております。私がここにいたなら、公都の兵士たちが学院にやってきた時、争いに学生たちを巻き込んでしまう恐れがありますので、私たちはそちらの拠点に陣を構えたいと考えています。非常に堅牢な拠点で、恐らく、公都の城に籠城するよりも遙かに安全な場所です」
「そのような場所が近くに……」
公都にある大公の居城よりも堅牢な拠点。そんなものが学院の近くにあるとは思えなかったのか、カインベルクは眉を顰めていたようである。ちなみに、ワルツたちが作った地下空間をジョセフィーヌたちの拠点とすることについては、ワルツもジョセフィーヌもお互いに了承済みだ。
そして用件の最後。ワルツたちにとってはこれが本題と言えた。
「あと、マス……ワルツさんとルシアさん、テレサさん、それにアステリアさんを学生として受け入れて貰えないでしょうか?」
彼女たちを学生として受け入れて貰えるよう口利きをすることだ。
ワルツはこの時、ビクビクしていたようである。カインベルクから何を言われるのかと考えた結果、いつも通りに悪い方、悪い方へと思考が傾倒していたのである。
「(いよいよ本当に私が……いえ、私たちが、どこにでもいる普通の町娘だと本気で装わなければならない時がやってきたのね……できるかしら……)」
では今までは何だったのか……。もしもワルツの心の声がその場にいた者たちに聞こえていたなら、そんなツッコミが飛んできたに違いない。
しかし、初対面だったカインベルクに、ワルツたちが普通か、普通ではないかなど、分からなかったようである。これがもしも外でルシアのビームを見ていたなら、話は別だったかも知れないが、カインベルクはずっと学院長室にいて、ルシアの魔法を見ていなかったのだ。
結果、彼女は、ワルツたちのことを品定めするかのように、じぃっ、と見つめ始める。
「(た、耐えるのよ!私!)」わなわな
「(……お姉ちゃん、絶対、何か余計な事を考えてる気がする)」じとぉ
「(なんで妾も学校に行くことになっておるのじゃろう……)」げっそり
「(…………!)」ドキドキ
そしてややしばらくあった後——、
「特例として期間外の入試を認めますが、無条件で入学までを認めることはできません。本校に入学した後で授業について行けるか確かめるためにも、試験を受けてもらうことになります」
——カインベルクはその見た目にはそぐわない鋭い視線をワルツたちに向けながら、そんな返答を口にした。
対するジョセフィーヌとしては、無条件で入学を認めて貰いたかったようだが、当のワルツたち——特にワルツはやる気満々だったようなので、それ以上を求めることはしなかった。
「えぇ、それで構いません」
その結果——、
「では、試験を実施しましょう。試験の日程は——」
「いつでも良いわよ?」
「でしたら、明日の朝、当学院にて実施します」
——ワルツたちは入学のための試験を受けることになったのである。
その際、約1名がひどく狼狽えたような表情を浮かべていたようだが、ワルツがその様子に気付いていたかどうかは不明である。




