14.3-18 中央魔法学院9
突然ワルツが上げた声に、ルシアもテレサも身構える。
しかし、扉が開け放たれても何も起こらない。結果、ルシアとテレサがお互いに顔を見合わせていると、ワルツが険しい表情を崩さないまま、その口を開いた。
「電波を……本来ならありえないはずの電波を検出したわ?」
本来、この世界にはあるはずのないもの……。科学が発達していないこの世界において、ワルツが管理する以外の意味のある電波を検出するというのはありえない事だった。
……いや、正確に言うなら、これまでワルツは電波を検出したことがないわけではない。同じガーディアンであるデプレクサによるものだ。その経験に照らし合わせるなら、学院長室にいるのはガーディアンなのではないか……。ワルツの中ではそんな懸念が急速に膨れ上がっていたようである。
「何がいるか分からないから警戒して」
ワルツの呼びかけを聞いたルシアとテレサは、その意味をすぐさま理解して、より一層警戒する。
一方、ここまで案内したミレニアや、後ろから付いてきていたジョセフィーヌ、アステリア、騎士たちは、何故か警戒を始めたワルツたちの様子を見て、不思議そうな表情を浮かべていた。彼女たちにとっては電波が何なのか分からない事もそうだが、周囲から危険そうな魔力は感じられず……。ワルツたちが何を警戒していたのか、まったく分からなかったのだ。
それでも、ただ事では無い雰囲気を出していたワルツたちの様子を見たジョセフィーヌとアステリアは、念のために警戒を大にした。今まで短い間とはいえ、ワルツたちと共に行動してきた彼女たちには、ワルツの呼びかけが無意味なものだとは思えなかったからだ。騎士たちも、ジョセフィーヌが警戒している様子を見て、彼女に倣い警戒を始める。
こうして、一行は警戒心を抱きながら、学院長室へと足を踏み入れた。
部屋の中はだだっ広かった。建物の1階部分を丸ごとくり抜いて作ったような部屋で、何か荷物が置いてあるわけでもなく、机がポツンと一つあるだけ。しかも、机は扉の近くに置かれていたので、実質的に広い部屋である必要性は皆無。そんな部屋にあった机の向こう側に——、
「おや?これは随分と大人数ですね?」
——部屋の主が座っていた。
そんな彼女の容姿を見たワルツは、思わず頭の中で考え込む。
「(えっ……子ども?)」
学院長の見た目は、機動装甲を失う前のワルツに近い年齢で、学院長を務めているとは到底思えない見た目をしていた。
もしや人違いなのではないか、とワルツが考えていると、ミレニアが恭しく頭を下げる。
「学院長。お客様をお連れいたしました」
やはり、彼女が学院長らしい。
そのことを知ったワルツは警戒を強めた。相手がガーディアンなら年齢と見た目が一致しないことをよく知っていたからだ。
彼女は一体、何者なのか……。ワルツが注意深く学院長を観察していると、予想とは少し異なる展開が生じる。それは、ミレニアが——、
「ジョセフィーヌ=フロイトハート大公閣下と護衛騎士の方々です」
——と口にした直後のことだ。
「ふえっ?!」
学院長は目を点にして固まると——、
「ちょっ?!た、大公閣下?!」ズササッ
——突然、その場に伏して、土下座を始めたのである。
その様子を見る限り、ジョセフィーヌやその付き人(?)であるワルツたちに危害を加えるような雰囲気は無く、もしも彼女がガーディアンであったとしても、直接戦闘にはならなそう……。ワルツの中では、少しだけ緊張が解れていたようだ。




