14.3-17 中央魔法学院8
「こちらです」
「やっぱり院長、時計塔にいるじゃん……」
「えっ?いえ、時計塔を通っていくだけで、時計塔に学院長がいるわけではありませんよ?」
「えっ?あ、うん……そう……」
いつも通りの勘違いをしながらワルツは学生のミレニアに付いていく。その後ろにはゾロゾロとジョセフィーヌたちが付いて並び、ただでさえピリピリとした空気が立ちこめていた学院の中を、さらに追加で物々しい雰囲気が包み込んでいた。
当然、ワルツも緊張していた。学生たちが皆、道を譲っていた事もそうだが、学院長という存在に会うのも人生で今回が初めて。自称神や国王、勇者といった権力者たちとはこれまで何度も顔を合わせてきたので、緊張するというのもおかしな話だったが、初めて会う権力者だったために、人見知りの激しさがここで再発していたのである。
姉が緊張していることに、ルシアも気付いていたようだ。ワルツが緊張に襲われて妙な言動に走ってきた状況に、ルシアも幾度となく居合わせていたために気づけたらしい。
「お姉ちゃん……もしかして今、緊張してない?」
「き、緊張なんて、し、してないわよ?」
「……本当?」
「……ちょっとだけ」
ルシアの質問に嘘がつけなかったのか、ちょっと、という副詞を付けながら、緊張していることを認めるワルツ。対するルシアは本当に"ちょっと"なのか追求しようと思ったようだが、どう見ても"ちょっと"ではないように見えたので、それ以上、姉を追い詰めるようなことは止めておくことにしたようだ。
その代わり——、
「大丈夫だよ?お姉ちゃん。お姉ちゃんの代わりに私たちが、学院長さんとお話しするから」
——ルシアはワルツの事を気遣って、姉の代わりに学院長と話を付けることにしたようである。まぁ、殆どはジョセフィーヌが話すはずなので、彼女たちが学院長と交わす会話は挨拶くらいのもののはずだが。
そうこうしているうちに——、
「こちらが学院長室です」
——とある部屋の前で、ミレニアが立ち止まる。階層は1階。ワルツが予想していたような高層階の部屋ではなかった。長い廊下にポツンと大きな扉が設置される……。そんな場所に、学院長室はあった。
「高い階層に部屋があるよりは1階にあった方が出入りはしやすいわよね……」
「えっ?」
「さぁ、いよいよね!」
「お姉ちゃん、何も話さなくても良いからね?」
「えっ?う、うん……?」
「では……」
コンコンコン……
ミレニアが学院長室の扉を叩く。すると間もなくして——、
『はい、どうぞー?』
——部屋の中から、女性の声が聞こえてきた。
「(学院がグラッジモンキーに襲われているのに、学院長様は部屋に引き籠もっていたのかしら?もしもそうだとすると、面倒な人かも知れないわね……)」
学院内がグラッジモンキーたちに襲撃されているというのに、自分は戦おうとせず、すべてを学生たちや教師たちに丸投げするトップ。学院長がもしもそんな人物だったなら、いったいどんな性格をした人物になのだろうか……。ワルツには悪い予感がしてならなかったようだ。
……そう、この瞬間までは。
「失礼します」
ガチャッ……
ミレニアが学院長室の扉を開ける。見た目は木製の扉だったが、金属で補強されているのか、扉の動きは重い。
ゆっくりと開かれていく扉を眺めつつ、その向こう側にどんな人物がいるのか……。その場にいた皆が、学院長の姿を想像した——そんな時。
「……?!ルシア!テレサ!構えなさい!」
急にワルツが声を上げたのである。




