14.3-15 中央魔法学院6
身体が特殊な合金で出来ているテレサを扉に叩き付ける、というのは流石にどうかと思ったのか、ルシアは魔力のビームを放ち、扉を破壊した。その直前で、扉の開け方について、ワルツたちと騎士たちとの間で色々とやり取りはあったようだが、扉の内部で何が起こっているのか分からない以上、強制的に開けることで皆が合意したらしい。
その結果が、扉に開いた大穴だった。まるで、巨大な砲塔に撃ち抜かれたかのように穿たれたその穴から、ルシアとテレサを始めとして、皆が学院の敷地内へと乗り込む。
乗り込んだ先にグラッジモンキーたちの姿は無く、ひとまずルシアたちは胸をなで下ろす。もしも門の内側でグラッジモンキーたち、あるいは公都からやってきた兵士たちがひしめき合っていたなら、ルシアたちは凄惨な討伐作戦を繰り広げなければならなかったからだ。
「敵だらけだったらどうしようかと思っちゃった」
「やること自体はあまり変わらぬのではないかの?」
「相手が人だったら、やっぱり嫌でしょ。まぁ、お猿さんでも良い気はしないけどさ?」
と言いつつ、ルシアは右手を空高く掲げた。
その瞬間——、
ズドンッ!
——ルシアの手から光の矢のようなモノが空へと打ち上げられる。学院の正門を撃ち抜いたものとはまったく異なる、砲弾のような魔法だ。光の砲弾は凄まじい速度で高度を上げていき、空を覆い尽くしていた雲の彼方へと消える。
一体、何をしたのか……。建物の中や、物陰に隠れていた学生たち、教師たちは、爆音と共に空へと消えていったルシアの魔法を見て眉を顰めていたようである。一見する限り、ルシアが魔法を無駄撃ちしたようにしか見えなかったのだ。
しかし、彼らの考えは数秒後に覆されることになる。
チュゥゥゥゥン……
チュゥゥゥゥン……
チュゥゥゥゥン……
曇天の向こう側から、流れ星のような白い光が降ってきたのだ。それも1つや2つではない。数え切れないくらい大量に、だ。広大な敷地面積を誇る学院全体どころか、周辺の森などを含め、広範囲に無数の光が落ちてくる。
その様子を見た誰もが理解した。……あれは正門から入ってきた獣人の娘が放った魔法だ、と。
それと同時に思う。そもそも——、
「ちょっ……まっ?!こっちに来るぞ?!」
——どこに向かって撃っているのか、と。もはや、獣人が魔法を使ったことなど、学生たちにはどうでも良いことだったようだ。
それほどまでに、空から降ってきていた魔力の気配が圧倒的だったのだ。すべてを押しつぶすかのような異様な魔力の気配が、その地全体を覆い尽くした。
そのあまりの圧迫感に、皆が死を覚悟する。そんな彼らの頭の中には、最早グラッジモンキーのことなど微塵も存在していなかったに違いない。
そんな時だ。
ギュゥンッ!
空を覆い付くさん限りに落ちてきていた光線の雨が、突然方向を変えたのだ。直角に曲がるモノもあれば、直進するものもあり、あるいはそれほど曲がらないものもある……。まるで一つ一つの光線が意思を持っているかのように、学院とその周辺地域に——、
ズドドドドゴォォォォンッ!!
——と降り注いだ。
その魔法によって死者が出ることは無かった。当然だ。ルシアが自動追尾機能付き光魔法で狙ったのは——、
「多分コレで、"なんとかモンキー"さんは全滅したんじゃないかなぁ?」
——グラッジモンキーたちだったからだ。
まぁ、一発だけ——、
ズドォォォォン!!
「ふがっ?!ど、どこ狙っておるのじゃ?!」
——精密誤爆をしたようだが、特に問題は無さそうである。
……動物愛護?
狐がおれば他はいらぬじゃろ。




