14.3-14 中央魔法学院5
学院の中では混乱が渦巻いていた。数週間前に学生たちの誰かがグラッジモンキーを攻撃して、学院全体が襲われることになったこと。そして、数日前に、少なくない数の学生たちが、寮に引き籠もったまま出てこなくなったこと。その2つの出来事によって、学院は、グラッジモンキーからの襲撃に耐えきれず、多大な被害を出していたのである。
もう一点、学院が、大きな被害を出すに至っていた理由がある。公都の兵士たちに救援を求めたにもかかわらず、いまだ誰もやってこないからだ。ただ、それも仕方のないことだと言えた。救援を出したのは4日前。公都からここまで辿り着くにも4日。準備や行軍などの時間を含めれば、どんなに早く見積もったとしても6日前後掛かるのは明らかだったからだ。
ゆえに、学院の関係者は、1週間弱、どうにか窮地を乗り切ろうと必死だったようである。学院の門を閉め切り、建物の中に避難し、そこから魔法や弓を放ってグラッジモンキーたちを倒していく……。その結果が学院の敷地内から立ち上る黒煙の正体だった。
学院の中、特に正門近くにあった講義棟に籠城していた女子生徒ミレニアは、疲れ切った学生たちや講師たち、衛兵たちの様子を見ながら、状況を絶望視していた。
「(間に合うかしら……。あと何日耐えきれば、援軍が来るのかしら……)」
体力は限界。食料も限界。その上、睡眠も碌に取れていない状況は、彼女たちの体力だけでなく、精神にも大きな疲労をもたらしていた。もはや戦線が崩壊するのも時間の問題。むしろ、今まで耐えきっていたのが奇跡と言えるレベルである。
もう、すべてを諦めて、最悪の状況に身を委ねれば楽になれるのだろうか……。そんな悪い考えが、ミレニアの脳裏の片隅を過ったとき——、
ゴウンッ!!
——締め切った正門から大きな音が聞こえてくる。
これまで何度も聞いたことのある音だ。塀を登れなかった一部のグラッジモンキーたちが、正門を破ろうと、モノや魔法をぶつけている音である。
その音は、疲弊していたミレニアだけでなく、他の者たちの精神にも大きな負荷としてのし掛かっていた。……また戦いが始まる。次は生きのこれるのだろうか……。波状攻撃的に外壁を登ってやって来るグラッジモンキーたちがいつやってくるのだろうとビクビクしながら、皆が武器を手に取った——まさにそんな時だった。
ドゴォォォォ!!
これまで聞いた事が無いような、異常な音が聞こえた。
皆が慌てて外を確認すると、周囲を真っ白な光が包み込んでいた。閃光だ。そんな状況の中で、皆が目をこらしながら、何が起こったのかと状況を確認しようとする。その結果、閃光に包まれているというのに、皆が光の中で目を見開いた。
バチバチと紫電を纏う光柱が、正門から生えていたのだ。特殊なエンチャントが付与されたはずの強固な正門が、まるで紙切れのように、眩い魔法によって貫かれていたのである。
その様子を見た学生たちは絶望した。……あんな魔法を使う魔物に勝てる訳がない。いやそもそもグラッジモンキーの仕業なのか。ドラゴンなのではないか……。そんな憶測と恐怖が、皆を襲った。
ただ、その絶望はそう長くは続かなかった。光が止んだ後、正門に明いた穴から出てきたのは——、
「こんなの、テレサちゃんをぶつけたって、簡単に壊れるんじゃないかなぁ?紙だね、紙。紙装甲」
「……ア嬢?お主、妾を何だと思っておる?」
「……質量兵器?」
「よーし、ア嬢。表に出るのじゃ!今日という今日こそ、ボッコボコにしてやるのじゃ!」
——そんなやり取りを交わす狐娘たちだったからだ。
ボッコボk――ブゥン




