14.3-13 中央魔法学院4
城だ。ワルツたちが辿り着いた学院は、文字通り、城だった。ファンタジー映画に出てくるような城が、高台の上にそびえ立っていたのである。
もう少し説明を補足すると、建っていたのは当然ながら城だけではない。石造りの塀が敷地をグルリと包み込んでいて、その中には大小様々な建物や、運動場と思しきエリアまで存在したようである。現代世界の施設で例えるなら、地方にあるような大学と似ていると言えるかも知れない。
ワルツたちはそんな学院の正門前までやってきた訳だが——、
「……思っていたのと大分違うんだけど……」
——正門の姿を見たワルツは、思わず眉を顰めてしまったようである。とはいえ、学院自体の構成や規模が、ワルツの想像と大きくかけ離れていたわけではない。
何が彼女の想像と違っていたのか。一言で言うなら、ボロボロだったのだ。それも、つい最近、戦闘があったかのように。
「焦臭いわね……」
「まぁ、実際、焦げ臭い煙が漂っておるからのう……」
ワルツの言葉にテレサが頷く。
学院の敷地内からは、所々で黒煙が上がっていて、周囲には焦げ臭いに臭いが漂っていた。それほど大規模な黒煙が上がっていたわけではないが、学院が戦闘に巻き込まれたのは間違い無さそうだった。
その様子に気付いたジョセフィーヌが、顔を青ざめさせる。
「ま、まさか、公都の手が、私たちよりも先に伸びていたというのですか?!」
彼女の問いかけに、騎士団長のバレストルが首を横に振る。ただその表情は、酷く固い。
「いや……これは人によるの襲撃ではなさそうです。人には塀を軽々と越えることは……まぁ、普通、出来ませんからな」
と言いつつ、先ほどまでの騎士たちの行動を思い返すバレストル。そんな彼の頭の中では、全身に甲冑を装備した騎士たちが、自分の身長よりも高い場所まで軽々と飛び跳ねる姿が浮かび上がっていたようだが、そんな例外がそうそう起こるわけもないので、すぐに考えを改めた。あるいはルシア級の敵がいた場合を想定して、思考が停止した、とも言えるかも知れないが。
「これは恐らく魔物の襲撃。魔物に襲われて、学院の者たちが反撃したのでしょう」
バレストルは、村で聞いた話を思いだしていた。学生たちが、森での授業中に、グラッジモンキーに手を出したという話をだ。
グラッジモンキーは、攻撃を受けると、群れでしつこく付きまとってくるという習性がある。ゆえに、冒険者の間では、グラッジモンキーを相手にしてはならないというのが常識。逃げの一択が推奨されていた。
ところが、それを知らなかった学生がいたらしい。学生の誰かがグラッジモンキーに手を出したせいで、村周辺にグラッジモンキーが出没するようになってしまったのだ。村人たちは直接関係ないが、同じ人族ということで、襲われるようになったようだ。そのせいで村人たちは、本来なら必要の無いはずの壁を村周辺に作ったり、外出制限をしなければならくなったりと、色々、影響を被ったのである。
もしも本当に学生たちがグラッジモンキーを攻撃したのだとするなら——、
「ここにもグラッジモンキーが現れたのでしょうな」
——学生たちが戻ったであろう学院も、グラッジモンキーたちに襲われた可能性が高いと言えた。
ただ、真偽は不明だった。学院の正門の扉は固く閉ざされていて、本来であれば見張りがいるはずの塀の上にも、人影一人見えず……。学院の中がどうなっているのかは、誰にも分からなかったのだ。
「中に入らないと、本当のところは分かりませんが……」
どうやって入って良いのか、皆目見当が付けられない……。バレストルが匙を投げようとした、そんな時。
「えっと、扉を吹き飛ばせば良いの?」
ルシアが危険な発言を口にする。




