14.3-12 中央魔法学院3
「マスターワルツのこと……?あの方が見た目通りの年齢ではない、という事以外でですか?」
「(えっと……普通に聞こえてるんだけど?)」
アステリアとジョセフィーヌが乗っていた馬車には、雨風を防ぐための幌が付けられていた。そのせいか、アステリアとジョセフィーヌは、幌のすぐ隣にワルツたちがいる事をすっかりと忘れていたようである。騎士たちがけたたましい音を上げてジャンプしていたり、馬車がガタガタと音を立てながら揺れていたりするせいで、2人ともワルツたちの気配を感じ取れなかったようだ。
しかし、騒音など関係無しに小さな音を聞き分けられるワルツにとっては、アステリアたちが目の前で会話をしているかのように2人の会話が聞こえていたようである。自分の事を話していたためか、ワルツは自然と聞き入ってしまう。
「はい。年齢については、エルフ族のように長寿の種族もいますから、とりあえず置いておきましょう。アステリア様がマスターワルツについてどんな印象を抱いているのか、率直な感想を聞いてみたかったのです」
「ワルツ様のことをどう思うか……」
アステリアは考え込んだ。ワルツについてどう思うのか、自分でも整理が付いていなかったのだ。
その内に、彼女には答えが見つかったのか、目を細めて口許を横に引き延ばすと、ワルツについての感想を口にした。
「主様であり、先生であり、そして……お姉ちゃんみたいな方だと思います!」
「お姉ちゃん、ですか?」
「(いやいや、どこをどうやったら、お姉ちゃんっていう発想に辿り着くのよ……)」
元奴隷のアステリアが、ワルツの事を"主"と捉えることに無理はないと言えた。"先生"と捉えることも、まぁ、おかしくはないと言えるだろう。
しかしである。"姉"という捉え方だけは、ワルツには理解出来なかったようだ。今のワルツは、アステリアの身長よりも遙かに低く、どこをどう見ても姉には見えない上、彼女がアステリアのことを妹扱いしたこともこれまで一度も無かったからだ。
ジョセフィーヌも、アステリアの"姉"発言には首を傾げている様子である。
「マスターワルツのどの辺を見て、"姉"のように思えたのですか?妹ならまだしも、姉というのは意外なのですが……」
「(やっぱりそうよね?それとも……知らず知らずのうちに、妹扱いするようなことをやってたかしら?っていうか、ルシアに対しても、妹扱いするようなことはしてないと思うんだけど……)」
ワルツがジョセフィーヌの発言に内心で同意していると、アステリアが理由を話し始める。
「包容力と言いますか、安心感と言いますか……マスターワルツの側にいるだけで、ホッと出来るんです。でも上手く表現出来る言葉が見つからなくて……。親とも違うし、友人とも違うし……。あとは、"お姉ちゃん"くらいしか思いつきません」
「なるほど……。合点がいきました。それは所謂、姐御肌、というものではないでしょうか?」
「姐御肌……!」
「(は?なにこの会話……。むず痒いんだけど……)」
一体何をどう考えたら、姐御肌などという表現に繋がるのか……。自覚の無いワルツはブルッと身体を震わせた。
なお、御者台で馬を操っていた騎士団長バレストルとしては、ワルツが"姐御"というジョセフィーヌの意見に賛成だったらしく——、
「はっはっは。それは言い得て妙ですな!」
——と、ジョセフィーヌたちの会話に相づちを打っていたようだ。
そんな会話を交わしている内に、目的地の姿が見えてきた。




