14.3-11 中央魔法学院2
「「「ひゃっはー!」」」
「……なんか、騒がしい連中ね。さっきまで死にそうな顔をして歩いていたのに、今度はなんか大喜びで歩いているし……。近衛騎士ってもう少し大人しいものだと思っていたのだけど、こんなものなのかしら?」
ルシアによって重力制御魔法を掛けられた近衛騎士団たちは、急に身体が軽くなったためか、無駄な動きを繰り返していた。具体的には、ほぼ全員が、普通に歩かずジャンプし、ガシャンガシャンと音と騒々しい音を立てていたようである。
「体重が減ったって言ったって、あんな動きをしてたら、その内、また疲れるでしょうに……」
「まぁ、楽しそうだから良いんじゃないかなぁ?」
「……それもそうね」
前を行くワルツたちは、気にしないことにしたようだ。むしろ、同じ集団だと思われたくないといった空気すら放っていたようである。
テンションが高い騎士たちの姿は、馬車の中からも見て取る事が出来ていて、アステリアやジョセフィーヌも、彼らの様子を眺めていた。ただ、アステリアの表情は暗い。びっしりと生えた毛のせいで顔色は覗えないものの、彼女の表情は間違いなく、真っ青だったようだ。
そこにはこんな理由があった。
「……本当に私、ここに乗っていても良いのでしょうか?」
騎士たちは徒歩で後ろから付いてきているというのに、獣人——それも元奴隷の自分が馬車に乗って移動していて良いのか。それもレストフェン大公国の大公ジョセフィーヌと一緒に……。アステリアはそんな戸惑いに苛まれていたのだ。
対するジョセフィーヌは、ふふっ、と笑みを零しながら、アステリアに対し返答する。
「問題はありません。私が許可します。……まぁ、私にも裁量権はありませんけれどね」
この場を取り仕切っているのは、ジョセフィーヌではなく、ワルツ。アステリアに馬車に乗るよう指示を出したのはワルツなので、彼女に従い助力を得る立場にあったジョセフィーヌには、アステリアを馬車から追い出す権限はなかったのである。なお、言うまでもない事だが、ジョセフィーヌにアステリアを追い出すつもりは毛頭無い。
むしろ、ジョセフィーヌとしては、アステリアとゆっくり話がしてみたかったようだ。
「アステリア様はマスターワルツと出会って長いのですか?」
「いえ、ジョセフィーヌ様よりも数日早いだけですよ?あと……すみません。私の名前に"様"はいらないので、アステリアと呼び捨てにして下さい」
「では私の名前も、ジョセフィーヌと呼び捨てにして下さい」
「えっ……ちょっ……ちょっとそれは、失礼と言いますか、胃が痛いと言いますか、なんと言いますか……」
「なるほど……。本当は対等に接して欲しいのですが、心苦しいというのでしたら、無理強いはしません。慣れたときにでも呼び捨てで呼んで下さい」
「は、はい……。しばらくはジョセフィーヌ様と呼ばせて下さい」
"しばらく"というのはいつまでなのか……。ただでさえ馬車に乗ることに罪悪感を感じていたアステリアが、それに輪を掛けてゲッソリし始めた様子を見て、ジョセフィーヌはいたずらっ子のような笑みを浮かべた。
それからジョセフィーヌは、アステリアに問いかける。
「アステリア様に聞きたいことがあるのですが……」
「……もしかして、私が"様"を付けるのを止めるまで、ジョセフィーヌ様も"様"付けを止めない感じですか?」
「…………」にこぉ
「……はぁ」
「まぁ、それはさておき……アステリア様はマスターワルツについてどう思います……いえ、どのような方に見えますか?」
アステリアから見て、ワルツはどんな人物に見えるのか……。ジョセフィーヌから見たワルツの姿は、大公としての視点からのもの。その対極とも言える獣人たちの視点からどう見えるのか、ジョセフィーヌとしては興味があったようだ。




