14.3-10 中央魔法学院1
そして一行はレストフェン中央魔法学院へと向かうことになる。ワルツたちがいた村から学院までは、徒歩で数時間の距離だ。
学院に行くのは、大公ジョセフィーヌとワルツ、ルシア、テレサの他、近衛騎士団長のバレストルと、他数名の騎士たちである。それともう一人。
「アステリアちゃんも行くよ?」
「……えっ?」
獣人の少女、アステリアも行くことになった。
「ど、どうして私も?」
「どうしてって……一緒に学院に入るからだけど?」
「はい?!」
「獣人が魔法を使えるところを見せつけて、ギャフンと言わせてやらないとね!」
「ちょ、ちょっと待って下さい!それ、ルシア様とテレサ様で十分なのでは?!」
「んー、私たちじゃダメかなぁ……。だって私たち、この国の国民じゃないし、最初から魔法を使えるし……」
「え、えっと……」
「ほらもう!つべこべ言わずに来る!」
と、強制的にアステリアの同行を求めるルシア。
そんな彼女の言動を見ていたテレサは——、
「……ア嬢が日に日に乱暴になっていくような気がするのじゃ。しかし、これで妾以外にも……」ふっふっふ
——なにやら怪しげな笑みを浮かべていて……。そんなテレサの様子を見ていた騎士たちから、何か可哀想なものでも見るかのような視線を向けられていたりする。まぁ、本人は気付いていない様子だったが。
結果、近衛騎士団を含めて、約30人の大所帯で学院へと向かうことになった。残る騎士団と獣人たちは、地下空間がある村で留守番だ。
一行は地上に出て、村で馬車を借りた。そこにジョセフィーヌとアステリアを乗せて、学院へと向かう。
借りた馬車は、決して大きいとはいえない代物だった。10人が乗るので精一杯の馬車だ。それでも村にある馬車の中では一番大きなもので、これ以上の大きさとなると、長距離用の乗合馬車や、キャラバン用の荷馬車、軍用馬車くらいしか無いのだという。当然、村にそのような馬車は存在しない。
ワルツたちの場合、荷馬車など借りずとも、数時間くらいの距離なら問題無く歩くことが出来た。それでも馬車を借りた理由は、ジョセフィーヌの体力を考えた結果だ。普段からデスクワークメインの彼女では、たったの数時間の距離でも、歩き続けるのは大変な事。地底にある家から地上に出るまでの数百メートルに及ぶ階段でさえ、息を切らしているのだから、当然の対応だと言えるだろう。なお——、
「「「ぜぇはぁぜぇはぁ……」」」
——フル装備の騎士たちが、思い切り息を切らしていたことは、見なかった事にされている。
更に言うと、彼らを襲う災難は、まだ終わりではなかった。学院が建っているのは、湖が見渡せる山の上なのだ。つまり上り坂が延々と続くのである。
「「「ぜぇはぁぜぇはぁ……」」」
「なんかさ……着く前に皆、死ぬんじゃない?」
後ろから付いてきていた騎士たちが、必死の形相で追いかけてくる様子を無視出来なくなったのか、ワルツはポツリと呟いた。
そんな彼女自身は、ルシアの重力制御魔法の影響下にあって、空中を浮かんで移動していたようである。ルシアも同じだ。テレサも一緒に浮かべられていて、ふわー、と脱力しながら運ばれている。
「確かに、みんな大変そうだね?」
「助けてやってはどうかの?」
「ふーん?テレサちゃんが他人に優しいっていうのは珍しいね?」
「いや、別に、厳しくした覚えは無いのじゃが……」
そんなやり取りをした後、ルシアは騎士たちに対し、少しだけ重力制御魔法を掛ける。具体的には、体重を半分になるよう魔法を掛けた。
その結果——、
「「「うぉっ?!」」」
——突然、身体が軽くなった騎士たちが、ムーンウォークよろしく大きく跳ねたり、転がったり……。ちょっとした混乱を見せることになった。
尤もそれも、短い時間のこと。間もなくして彼らは、軽くなった身体の使い方を覚えて、馬車を追いかけることになる。ただし、彼らなりの方法で。




