14.3-09 変化9
「えっと……ごめんなさい……」しゅん
模擬戦(?)が終わった後、ルシアは酷くしょんぼりとしていた。アステリアやジョセフィーヌたちにまでが自身の魔力に中り、彼女たちを昏倒させてしまったからだ。
しばらく経って意識を取り戻したアステリアとジョセフィーヌに対し、ルシアが謝罪すると、幸いな事に2人に怒った様子は無かった。むしろ、感心すらしていた様子だった。
ジョセフィーヌとアステリアがそれぞれ返答する。
「強力な魔力を受けると、あのようなことになるのですね……。初めて知りました」
「こう、ふわっ、って感じで意識が飛んでいきました。あれも魔法なんですか?」
対するルシアは、2人が怒っていないことにホッとしながら、アステリアの質問に対し首を横に振った。
「ううん。あれは魔法になる前の魔力だけだよ?魔法になったら……多分、この地下の空間が吹き飛んじゃうと思う」
「「!」」
感心していた2人の表情が硬直し、今度は青い色に染まる。もしもルシアが本気で模擬戦をしていたならどうなっていたのか、2人とも想像したのだ。
もしも"地下空間が吹き飛ぶ"という話が、現実味の無いただの話だったなら、2人ともそこまで大きな反応は見せていなかったことだろう。しかし、強大な魔力を当てられた今なら、確信出来たようだ。……もう少しで、自分たちは死んでいたかも知れない、と。
ルシアが全力を出したらどうなるのか、と考えながら、アステリアたちは次に、ワルツとテレサに対して目を向けた。というのも、自分たちを含めて獣人たちや騎士たちまで皆、全員が昏倒していたというのに、ワルツとテレサはルシアの魔力を受けても平然としていて、影響を受けているようには見えなかったからだ。
「はぁ……。私たちはなんと弱い存在なのでしょう……」
「マスターワルツやテレサ様はまったく影響を受けていないように見えます」
2人の言葉に、ワルツとテレサが反応した。
「その呼び方、まだ続いていたのね……」
「妾たちはア嬢の魔力に慣れておるからのう。あの程度の魔力照射では、ビクともしないのじゃ」
そんなテレサの発言に、ルシアは不満げに頬を膨らませるものの、一応、アステリアたちに対する謝罪の場だったので、反論することはなかった。……ただ、ジト目をテレサに向けただけである。
「いつかはルシア様のような力を身につけたいものです」
アステリアのそんな呟きに、ルシアは再び首を振った。
「いやー、魔力が多すぎても良いことは無いと思うけどなぁ……。四六時中、魔法を使ってないと、具合が悪くなってくるし、ちょっと力加減を間違えて、テレサちゃんをプチッとやっちゃいそうだし……」チラッ
「あ゛ぁ゛?」ビキビキ
「そんなことよりさ……どうする?具合が悪いなら、学院に行くの、明日以降にした方が良い?」
今日は皆で学院に行く予定だった。ジョセフィーヌが学院の者たちを、公都奪還のための味方に引き込むという目的があるからだ。
予定を台無しに仕掛けていたルシアは、申し訳なさそうにジョセフィーヌに対して問いかけた。対するジョセフィーヌは、微笑みながら立ち上がると——、
「いえ、身体の調子は既に戻っています。大丈夫です。学院に行きましょう」
——学院に行く意思を見せた。
「本当に大丈夫?」
「はい。大丈夫です。それに、急がなければ公都から手が伸びる可能性がありますし」
「そっか……。本当にごめんなさい」
「いいえ。気になさることはありません。怪我をしたわけでもありませんし、それに今回のことは……私の弱さが招いた結果ですから」
そう言って外出の支度をするジョセフィーヌ。そんな彼女の背中を、ルシアはしばらくの間、眺め続けたようだ。




