14.3-08 変化8
ワルツと模擬戦が出来る、という話を獣人たちや騎士たちにしたところ、皆、何故か、目の色を変えて喜んだようである。やはり、テレサが予想したとおり、獣人たちは力を持て余していて、そして騎士たちは強者と戦いたかったようである。
こうして模擬戦が行われることになったのだが——、
「何だったら、私が代わりに模擬戦をやるよ?」
——ワルツがルシアに事情を話したところ、急遽、ルシアがワルツの代わりに戦う事になった。
というのも、最初はやる気だったワルツが、模擬戦のために皆の前に立ったところ、獣人たちと騎士たちから視線を集中して浴びることになり、いつものコミュ障が再発したのである。気分が乗っているときは問題無いのだが、今日は調子が悪かったらしい。
というわけで、ルシア対獣人・騎士たち、という構図の模擬戦が行われることになった。それが決まるとどういうわけか、獣人たちは皆、尻尾を股に入れてしまうほどに萎縮し、騎士たちもブルリと肩を振るわせて皆及び腰になってしまう。
対するルシアは、そんな獣人たちや騎士たちの前でニッコリと笑みを見せると——、
「たまにはちょっとだけ本気を出してもいいよね?」
——と言いながら、巨大な杖をどこからともなく取り出した。転移魔法を使って、ミッドエデンの自室から杖を呼び寄せたのだ。
ルシアの身長よりも遙かに大きな杖が突然現れた事に、皆が目を疑った。突然現れたこともそうだが、異常なほどに大きな杖を軽々と持ち上げているルシアの姿が、俄には信じられなかったのだ。
「魔力を放出するけど、覚悟してね?」
ルシアがそう口にした次の瞬間だった。
ズドォォォォン!!
まるでルシアを中心に爆発でも起こったかのように、魔力の暴風が吹き荒れる。それだけで、獣人たちや騎士たちは、木の葉のように吹き飛ばされ、地底をゴロゴロと転がっていった。
ちなみに魔力を感じ取れないワルツは、というと——、
「……ん?みんなでコントをするって、事前に話し合いでもしてたの?」
——涼しい顔をしながら、首を傾げていたようである。魔法をまったく感じ取れない彼女にとっては、例え魔力の暴風であっても、そよ風以下。むしろ、各種センサーを使っても、変動の"へ"の字すら感知出来なかったようである。
そんなワルツの呟きに、同じく吹き飛ばされていなかったテレサが返答する。
「魔力の濁流が生じたのじゃ。それで皆、吹き飛ばされてしまったのじゃ?」
「テレサは?」
「まぁ、いつも吹き飛ばされておるからのう……。この程度の事では圧倒され——」
ドゴォォォォ!!
「圧倒——」
ズドォォォォン!!
「……ア嬢?今、妾はワルツと話しておるところなのじゃが?」じとぉ
「だって、テレサちゃんが圧倒されないって言うから、ちょっと強めに魔力を流しただけじゃん。圧倒されないなら問題無いよね?ほら、お姉ちゃんも涼しい顔をしてるし……」ゴゴゴゴゴ
「……試合に集中するのじゃ」
「うん?そんなこと言っても……」
そう言いながらルシアは周囲に視線を向けた。しかし、ワルツとテレサ、それにルシア本人以外に立っている者はいない。
「まだ始まってないのに、試合どころじゃなくなったみたいだし……」
数日前に繰り広げられたものと似たような死屍累々とした光景。そんなものが周囲に広がっていたのである。まぁ、今回の方が規模的には大きいのだが。
なお、アステリアとジョセフィーヌは模擬戦には参加していなかったものの——、
「「 」」ちーん
——特設席に用意された椅子の上で、気絶していたようである。
それほどまでに、ルシアが本気を出したときの魔力は強力で、生身の人間には耐えられないほどのものだったようである。それも、最大出力の1%も出しておらず、魔法という形にすらなっていない魔力だけの状態で。
投稿時刻は午前0時よりも早いのじゃが、あけおめ☆ことよろ、なのじゃ。




