14.3-07 変化7
次の日から、獣人たちと騎士たちの奇妙な共同生活が始まった。お互いに微妙な距離を取りながらも、ワルツからの指示をこなし、お互い徐々に歩み寄っていく。
しかし、やはり、長年の蟠りというのはそう簡単に拭えるものではなかったようだ。獣人たち側からすれば、騎士たちという存在は元々雲の上の存在。一報で騎士たちからすれば、獣人たちは地を這う獣と同じ。お互いが持つ先入観や事前知識といったものが、2者の接触を妨害していた。
「どうしようかしら?テレサの言霊魔法で、記憶を全部飛ばす?」
この先、自分たちが地下空間を離れて学院に行ったり、ミッドエデンに帰ったりする状況になったとき、この場に残されるかも知れない獣人たちと騎士たちの仲が悪いというのは、ワルツとしてはどうしても避けたかった。両者が衝突するという最悪の展開も考えられるからだ。
手っ取り早い問題解決方法としては、テレサの言霊魔法を使って先入観を消し去ったり、最初から友人同士であるかのように刷り込んだりするという方法が考えられた。しかし、当のテレサはあまり乗り気でなかったようである。
それにはこんな理由があった。
「無理矢理くっつけると、あとで歪みが生じるかも知れぬのじゃ。こういう時は、お互いに自然と馴染めるように、何かイベントを開催すれば良いと思うのじゃ」
「イベント?」
「そうじゃのう……例えば——」
「……!やっぱそれ無しで!」
「えっ……まだ何も言っておらぬのじゃが?」
「テレサだったら、私のあられもない姿を取るイベントを開催して、優勝者には私の写真をプレゼント、とか意味不明なことを言い出すと思って」
「……その手があったのを忘れておったじゃ」げっそり
「…………」じとぉ
「いやいや、今回はそんな事しないのじゃ。ワルツの素晴らしさを理解しておらぬ者たちをイベントに参加させたところで、ドン引きされて終わりになるはずじゃからのう」
「いつかはやるのね……」
"今回は"というテレサの言葉に反応して、テレサにジト目を向けてから……。ワルツはそのまま質問を投げかけた。
「じゃぁ、ちなみに聞くけど、どんな事をすれば良いって考えたわけ?」
「それはもちろん、みんなでワルツ——」
「……いかがわしいことじゃないでしょうね?」
「ち、違うのじゃ。みんなでワルツと模擬戦をするというイベントはどうかと思ったのじゃ」
「私と模擬戦?」
「うむ。ワルツ対ほか全員という模擬戦を開催して、ワルツに手を触れられれば皆の勝ち。その場合は、豪華景品が与えられるというイベントなのじゃ。おそらく皆、必死になって協力するゆえ、蟠りも消えるのではないかと思うのじゃ?」
「なるほど……。でも、負ける気はしないわよ?」
「わざと負けても良いし、常勝を続けるのでも良いと思うのじゃ。まぁ、子どもあやすようなものだと思えば良いのではなかろうか?」
全身に甲冑を着込んだ子どもがどこにいる、と内心で突っ込みを入れつつ、ワルツは冷静にテレサの提案の妥当性を考えた。
「(確かに、アイスブレイキングとしてはありよね。まぁ、別に私と戦わなくなって、いくらでもアイスブレイクの方法はあると思うんだけど……でも、獣人たちもせっかく使えるようになった魔法を活用したいと思っているだろうし……確かに悪くないプランではあるわね。うん)」
そう結論づけたワルツは——、
「おっけー。じゃぁ、模擬戦をやりましょうか」
——テレサの提案を受け入れることにしたようである。そう、この時点までは……。




