14.3-06 変化6
「獣人の方々同様、私もワルツ様にこの世界を……目に見える景色を変えて頂いたのです。憧れのような感情を抱いている彼らの気持ちはよく分かります」
「……誘拐したのに?」
「はい。むしろ、誘拐していただけたからこそ、私は今こうして生きていられるのですから、感謝の念しかありません。それに、短い時間とは言え、自国内を連れて回って頂けましたもの。長年の願いを叶えて頂きました」
「ちょっとその考えは人が良すg——」
「いえいえ、謙遜されないで下さい。真実ですので」
ジョセフィーヌから捲し立てられるように褒められたためか、ワルツは何とも煮え切らなさそうな表情を見せた。褒められ慣れていない彼女にとっては、どう反応して良いのか分からなかったらしい。
ワルツが反応に戸惑っていると、まるで火に油を注ぐかのように、別の方向からも、彼女の事を褒める人物が現れる。
「私も……いえ、私たちも、ワルツ様には感謝しております」
アステリアだ。より正確に言えば、彼女の後ろにいた獣人たちを含めて、というべきか。皆、アステリアに倣うかのように、ワルツに向かって頭を下げ始めた。
対するワルツは、人付き合いが苦手だった上、頭を下げられる経験も無かったためか、居心地が悪いなどというレベルではなかったらしく、盛大に目を泳がせる。
「ぜ、絶対みんな勘違いしてるけど、私自身には何の力も無いからね?」
今の自分は機動装甲を失って何も出来ない状態なのだから、皆から感謝されるわけがない……。そんな言葉を心の中で呟きながら、彼女はルシアの背中に隠れて、そして隠れたままで言葉を続けた。
「わ、私じゃなくて、ルシアやテレサに感謝すべきよ。うん。実際に手を動かしているのは、私じゃなくて2人なんだから……さ?」
酷く恥ずかしげにそう口にするワルツを前に、彼女の言葉を聞いていたアステリアやジョセフィーヌたちは考える。……果たして、指から光線を出してまったく同じ形状の工具や木材、金物を高速に作り上げる少女が、何の力も無い、と言えるのだろうか、と。
その結果、皆の視線は生暖かいものとなり、ワルツの繊細な心(?)はより一層締め付けられることになる。そして数秒後。
「ううう……。これ、なんか恥ずかしい……」
彼女はついに耐えられなくなったのか、ルシアの背中にピッタリと顔を付けて何も言わなくなってしまった。
彼女の様子を見た獣人たちやジョセフィーヌは、ワルツをあまり褒めすぎると彼女のことを追い詰めてしまうような気がしたらしく、その場は解散となった。ワルツをこれ以上褒めると、恩を仇で返すような形になる気がしたらしい。
解散した後、昏倒していた騎士たちは、獣人たちの手によって、それぞれの自宅に運ばれていく。その際、多くの騎士たちが意識を取り戻したものの、プライドゆえか素直に感謝の言葉を口に出来なかったようだ。
ただ、逆に文句を口にする者も誰一人としていなかった。公都にいた頃の彼らなら、獣人たちの事を"汚らわしい者たち"などと言って蔑んでいたかも知れないが、獣人たちが魔法を使えるようになったためか、ジョセフィーヌが獣人たちと親しげに接していることを知ったからか、あるいは獣人たちがワルツたちの関係者だったからか……。いずれにしても、騎士たちが、獣人たちに対して、公都にいる者たちのような横柄な態度を取ることはなかったようである。




