14.3-05 変化5
アステリアたち獣人は、初めて魔法を使った事による急性魔力欠乏症に陥った後、一晩寝て……。そして昼頃には起きられるようになっていた。
そして地下の家屋から外(地底)に出た獣人たちは——、
「えっと……なんですか?この状況は……」
「「「 」」」ちーん
——騎士たちがグッタリとした様子で地面に倒れ込んでいる姿を見ることになる。大半の獣人たちは、騎士が地下空間に来たこと自体を知らなかったので、まずそこで驚愕し、さらに騎士たちが地面に倒れ込んでいるという状況を前に、再度、驚愕することになっていた。むしろ、情報量が多すぎて、理解不能に陥っていたと言った方が良いかも知れない。
もう一点、獣人たちの混乱を増長する原因になっていたのは、横たわっていた騎士たちの真ん中で、平然と立っている4人組——ワルツ、ルシア、テレサ、それにジョセフィーヌの4人の存在だ。一見すると、彼女たちが、地上から侵入してきた騎士たちを排除したように見えていたのだが、どういうわけか彼女たちの表情に浮かんでいたのは、全員ともが戸惑いの表情。まるで、騎士たちが昏倒した原因が分からない、と言わんばかりの反応を見せていた。
事情がまったく分からなかったアステリアが問いかけると、ワルツから返答が戻ってくる。
「えっと……何て言えば良いのかしら……。騎士たちが鍛錬を付けて欲しいって言い出したのが始まりなのよ。それで彼ら、ジョセフィーヌの事が守れるくらい強くなりたいって粋がっちゃってさ?どうしても相手をして欲しいって言うから、ちょっとだけ相手をしたらこうなっちゃったのよ。あ、いや、私じゃなくて、テレサがね?」
「ちょっ、違っ……。騎士たちの鍛錬にワルツが参加すると、作業に邪魔になりそうだったゆえ、ワルツと鍛錬を付けたらこんな感じになりそう、という幻影を騎士たちに見せただけなのじゃ。そうしたら、こんなことになってしまっての……」
「これ、力の加減間違えたんじゃないかなぁ?」
「……ア嬢に言われたくないのじゃ」
と言って、やれやれと首を振るテレサ。
そんな中でワルツは、とある異変に気付く。自身に向かって熱い視線が獣人たちの方から向けられていたのだ。
「えっと……気のせいだと思うんだけど、なんでみんなこっち見ているの?それも滅茶苦茶、目を輝かせながら」
「「「!」」」きゅぴーん
「むしろ発光してる……?」
獣人たちは、いったい何が目的でこちらを見つめてくるのか……。ワルツが眉を顰めていると、ジョセフィーヌが苦笑しながら理由を口にする。
「皆さん、ワルツ様が作った杖を使って魔法が使えるようになったのです。そしてワルツ様は騎士たちを一瞬で昏倒させた。それは獣人の皆様にとって——」
「いや、騎士たちを昏倒させたのは私じゃなくてテレサなんだけど?」
「えぇ存じています。しかし、テレサ様はワルツ様のお仲間ですよね?つまり、テレサ様のお力は、ワルツ様のお力と言っても良いと思うのです。彼らは、強大な力を持っているワルツ様に憧れを抱いているのですから」
「憧れねぇ……。なんか納得出来ないんだけど、本当かしら?」
と言いながら、チラリと獣人たちの方に視線を向けるワルツ。するとそこには、異様なほどに、目をキラキラと輝かせながらワルツを見つめる獣人たちの姿が……。
「……憧れられるようなことなんて……その……何もしてないんだけど……」すっ
そのあまりの眩しさに、ワルツは思わず目を背けてしまった。獣人たちが魔法を放つ際に使った杖は偽物で、その上、騎士たちを昏倒させたのは自分ではなくテレサ。まったく何もしていないと言っても過言では無いというのに、なぜ自分が憧れの的になるのか、ワルツには理解出来なかったようだ。
それに輪を掛けて——、
「そんな事はありませんよ。私も彼らの気持ちはよく分かりますから」
——ジョセフィーヌもまた、ワルツに対して、なにやら感謝していたようである。




