14.3-04 変化4
ジョセフィーヌの提案もあり、ワルツたちはレストフェン大公国中央魔法学院に協力を仰ぐことになる。ワルツにとっては"学園"というものに行くのが初めてだったこともあり、ジョセフィーヌが同行することを聞いた彼女は、内心でホッとしていたようだ。
ただ、アポイントメント無しにいきなり押しかけるというのは流石に難しいという話になり、まずは近衛騎士から先触れを出して、明日以降、訪問することになった。ワルツたちとしても色々とやらなければならないことがあったので、明日以降で訪問するという話は非常にありがたかったようである。
「さて、ポンプを設置して、発電機を作って……あと、換気扇も作るわよ!」
知人と学園に行くことが決まったためか、ワルツのテンションは高めだったようである。
それに付き合わされるルシアの方は、本当に今日中に終わるのか、少し不安だったようだ。
「今日中に出来るかなぁ?」
「出来なかったら……最悪、ウチの王都まで取りに行くわ?ただし、コルテックスに見つからないようにね」
「コルちゃんに見つからなくても、誰かに見つかったら大変なことになりそう……」
そう口にするルシアだったものの、彼女も彼女でミッドエデンには帰りたくないと思っていたようである。そもそも、皆のところに帰りたくないと言い出して、レストフェン大公国まで飛んできたのはルシアなのだから、彼女が帰宅に及び腰だったのは当然の反応だと言えよう。
ただ、その気持ちも、今では大分落ち着いていたようである。ミッドエデンを出てから、はや1週間。気持ちの整理を付けるには、十分な時間だった。
……というのは、少し前までの話。今ではまたミッドエデンに帰りたくなくなっていたようである。理由はワルツと同じ。皆には内緒で抜け出してきたので、皆に合わせる顔が無かったのだ。
「みんな、怒ってないかなぁ……。逃げ出すように抜け出してきたこと、気にしてるんじゃないかなぁ……」
「……別に問題無いと思うわよ?」しれっ
「じゃぁ帰る?」
「……テレサはどう思う?」スッ
ワルツがルシアから視線を背けるようにしてテレサへと問いかけると、テレサは水を向けられると思っていなかったのか「む?」と言いつつ獣耳をピクリと動かして……。そして、面倒くさそうに返答する。
「心配はしておるかも知れぬのじゃが、別に怒ってはおらぬじゃろ。まぁ、一報を入れるくらいはやっても良いのではなかろうかの?」
「そう……だよね……」
「そう……よね……」
ルシアに続いて、ワルツも肩を落とした。どうやら、2人とも、ミッドエデンに連絡を取ることに忌避感があるらしい。この場合、後ろめたさ、と言うべきか。
姉も自分と同じような反応を見せていることに気付いて、ルシアがワルツに問いかける。
「お姉ちゃんは連絡取っても良いんじゃないかなぁ?」
「……こんなちんちくりんな姿をコルテックスたちに見られたら、何を言われるか分かったものじゃないから、姿も見せたくないし、会話もしたくない、っていうのが本音よ?あと、カタリナやユリア辺りに見られても、滅茶苦茶子ども扱いされそうだから微妙ね。こう、よしよし!って」
「……まぁ……そうだね」
「……否定はできぬかの」
ルシアにもテレサにも、ワルツのその発言を否定することは出来なかった。2人とも頭の中で、リアルなコルテックスたちの反応を想像出来ていたようである。
「ま、ここの作業が終わらなければ、そのときは大人しく王都に戻って部品を取ってくるわ?ようするに——」
「絶対に完成させる、って事だね!」
「そういうこと」
「完成させねば、地下空間を維持する事ができぬからのう……。というか、今から王都に戻って部品を取ってくれば、わざわざ半日も掛けずに、すべての作業が終わるのではなかろうか?」
「「…………」」
テレサの一言に姉妹が黙り込む。その際の2人の視線は、どういうわけか泳いでいて……。まるで、図星の指摘を受けて耳が痛い、と言わんばかりの反応だったようだ。




