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6序-18 狩人の災難4

すまぬが、眠くてマトモにチェックできんのじゃ・・・。

というわけで、言い回しや細かい修正は明日やるのじゃ。

小会議室に入り、議長の顔を見てから、何故か固まる狩人。

もちろん、議長が昨日の男性とは別人だったというわけでも、何か閉口するような事があったわけでもない。

・・・狩人は昨日議長に言われたことを思い出していたのである。


昨日、議長が狩人に対して話しかけた言葉はこうだった。


『エリザベス様、要件をお願いします』


要件をお願いします・・・。

サウスフォートレスの被害状況を報告する場において、要件を話して欲しいというのは一体どういうことなのか。

彼女は、自身が想定していた質問の内容とは異なることに気づいたのである。


「(・・・もしかして、コルテックスの話を聞き間違えた?)」


今更になって、冷や汗を書き始める狩人。


だが残念なことに、刻一刻と迫っていた開会の時間は待ってくれなかった。


「・・・では、昨日に続いてサウスフォートレス復興対策会議の開会を宣言します」


壁にかかった魔導時計(?)を見ながら、声を上げる議長。

その声に、


「(くっ、これまでか・・・)」


狩人は、目の前に座っている官僚たちが、自分を取り囲む魔物のように見えていた。

もう少し詳しく例えるなら、狩りでミスして、うっかり魔物の群れの真っ只中に迷い出てしまった、といったところだろうか。


そんな官僚たちを目の当たりにして、


「(・・・元はといえば、私が考え事をしていて話を聞いていなかったことが原因。ならば、相当の責めを受けるのは道理か・・・)」


『話を聞いていなかった』と打ち明けることに決める狩人。

・・・そんな時、


ガチャ・・・


小会議室の扉を開ける音が聞こえてきた。


「遅れて申し訳ない。リーゼ(エリザベス)様の補佐で来たアトラスだ」


本来、コルテックスの補佐のはずのアトラスが、何やら書類の束を持ってやってきたのである。

彼は狩人の隣に座ると、狩人に耳打ちした。


「(・・・狩人の姉ちゃん。姉貴(ワルツ)に頼まれて助っ人に来たぜ?)」


そんな彼の言葉に、


「(そうか・・・ワルツは分かってたんだな)」


狩人は苦笑を浮かべながら答えた。


「(なんか、狩人姉(かりゅうどねえ)が勘違いしてるかもしれない、って姉貴が言ってたんだけど・・・大丈夫か?)」


「(・・・正直、大丈夫じゃないな)」


アトラスの言葉に、狩人は首を振った。


「(なら丁度良かった)」


そう言ってアトラスが机の上に置いた書類には、


「(・・・サウスフォートレスの被害状況と要望?)」


とタイトルが書かれていた。

狩人がパラパラと見る限り、彼女の持っていた被害状況をまとめた書類と似通っていたが、アトラスが持ってきた書類には、そこから一歩踏み込んで、復興のための要望と予算請求の希望額まで記載されていたのである。


「(そうか・・・そういうことだったのか・・・)」


今になって、ようやくコルテックスが何を言わんとしていたのかを把握する狩人。

・・・ちなみに、コルテックスが無線で話そうとした内容はこうである。


()()()()()()()()()()復興に向けた、要望の聞き取り調()()と、予算調整を行うため()()()()()です()()()


それも、現状で狩人が把握している被害状況の範囲で、申請された予算を取りまとめるための作業部会。

そして、彼女が今現在把握していないために生じた不足分については、都度、予算調整と審査のための会議の場を設置する、と議会で決まったのである。

・・・まぁ、諸事情により殆どザルだが。


早期にサウスフォートレスの復興を実現させるために、本来は必要になる面倒な手続きを省略して、狩人にミッドエデンの予算執行のためのある程度の自由を与えた、とも言えるだろうか。


・・・しかし、そのことが分かっても狩人の表情は重かった。


「(すまないアトラス・・・私は・・・私には責任を負う義務があるんだ!)」


「(・・・何言ってんだ狩人姉・・・?)」


どうやら責任感の強い狩人にとって、アトラスがいなければ、結局失態を犯してしまっていたことが許せなかったようである。

そして狩人は座席を立って口を開く。


・・・本会議で話を聞いていなかった自分の不手際のせいで、この作業部会が先延ばしになってしまったことを謝罪するために・・・。


「すまない諸兄ら。実は・・・」


そして狩人が、事の確信部分に触れようとした・・・その時であった。


「ほぉ・・・これは素晴らしい報告書です!」

「予算申請の内容も用途も非常に明瞭で分かりやすい」

「これを1日でまとめられたとは・・・素晴らしい才能をお持ちのようです」


机の上に展開されていたアトラス製の報告書に目を通して、感嘆の唸りを上げる官僚たち。


「えっ・・・」


明後日(あさって)の方向に話が進み始めて、戸惑う狩人。


「これだけまとまっているのなら、この話は私達の方で進めておきましょう」


アトラスの報告書に眼を通した議長役の男性が、妙に嬉しそうな表情を浮かべながら、口を開いた。


「あ、あぁ・・・頼む・・・」


突然の展開に謝罪の機会を失う狩人。

そんな時・・・、


「これほど素晴らしい報告書なら、他の案件についても是非まとめていただきたいものです」


一人の官僚がそんな事を口にした。

すると、


「確かに。それは名案ですな」

「エリザベス様はサウスフォートレスの復興のためにお忙しいところかと存じますが、これほどの才能を埋もれさせておくなど勿体無い」

「では早速、この会議が終わり次第、次の案件を用意させていただきます。あ、もちろん、すぐに報告書をまとめていただく必要はありませんよ?」


・・・といったように、次々に官僚たちが勝手に話を進めていく。


「ちょっ・・・(おい、アトラス!どうするんだ、これ?)」


報告書を持ってきたアトラスに思わず苦言を呈す狩人。


「(あー、やり過ぎたか)」


アトラスの作った報告書は、ワルツの膨大なデータベースに記録されていた報告書の作成方法を参考にまとめたものであった。

要するに、現代世界での報告書の書き方を異世界に持ち込んだのだ。

官僚たちの反応を見る限り、それがどうやら彼らに大受(おおう)けだったらしい。


「(どうすっかなぁ・・・なぁ、姉貴?)」


狩人から眼を離して何もない空間に目を向けるアトラス。

すると、


「(え?何?官僚たちの首を刎ねればいいの?)」


ワルツの声が聞こえてきた。

姿は見えないが、天井に張り付いているらしい・・・。

狩人は気付かなかったが、最初から部屋の中にいたようである。


「(ちょっ・・・ワルツ!)」


自分の不手際のせいで、皆殺しにされる官僚たち・・・。

そんな彼らの最期を想像して、狩人は顔を青くした。


・・・まぁ、そんなことになるわけもなく、


「(冗談ですよ)」


と、殺戮を否定するワルツ。


「(ま、たまにこういうことがあるんですよね〜・・・)」


彼女の言う通り、現代世界ではなんてことはない普通の事が、異世界でも同じく通用せず、大問題になってしまったことがこれまでにも何回かあったのである。


そしてワルツは狩人に言った。


「(じゃぁ、狩人さん。官僚たちのことを睨んでもらえます?)」


「(睨む?)」


「(そうですね・・・ニコっと笑みを浮かべながら、官僚たちの方を向いて下さい)」


「(・・・?よく分からないが・・・言われた通りやってみるよ)」


そして、狩人は、彼女の返事を待っている・・・ように見える官僚たちに、優しげな笑みを浮かべた。


・・・すると、


『・・・ひぃっ?!』


・・・何故か一斉に青い顔を見せる官僚たち。

中には失禁するものや、気絶するものまでいた。


「ちょっ、待て!何やったワルツ!」


小声で喋ることも忘れて、後ろの天井隅にそのまま話しかける狩人。


「(狩人さん、声が大きいですって。えーと、これ以上変な虫が付かないように、プレッシャー(ロックオン)を掛けただけですよ?)」


なお、狩人は全く気づいていないようだが、ワルツの『変な虫』という表現は、狩人が伯爵の娘で、相手が官僚であることを考えるなら・・・言わずもがなだろう。


「(・・・やり過ぎだろ)」


「(この位がちょうどいいんです!)」


「はぁ・・・(まぁ、いいけどな。結果として助かったしな・・・)」


ワルツが自分のためにしてくれたことであったこと、そして死人やけが人が出たわけではないので、狩人は彼女の行動を受け入れることにした。


・・・そんな時である。


「(・・・今、ユリア達から()()の連絡が入ったんですが、取り込んだ用事みたいなので、ちょっと行ってきますね)」


ワルツの無線通信システムに、ユリア達から連絡が入ったらしい。


「(そうか、気をつけてな)」


「(狩人さんも、あまり気負いしないでくださいね。この会議も、本当はわざわざ開く必要の無い形式的なものなんですから)」


「(そ、そうか・・・)」


ワルツがそんなカミングアウトをすると、勝手にドアが開いて、すぐに閉じた。

彼女が外に出て行ったらしい。


「(全く、どうすんだよこれ・・・)」


姉が居なくなった後、目の前に広がる惨事に眉を顰めるアトラス。

・・・そう、失禁や失神のために、会議どころではなくなった官僚たちをどうするか、と言う話である。


「まぁ、どうしようも何も、元にいた場所に返すか、施療室に運ぶしか無いんじゃないか?」


そう言いながら、苦笑を官僚たちに向ける狩人。

・・・すると、


『ひぃっ?!』


・・・そんな声を上げて、その場にいた官僚全員が後ずさると、再び失禁したり、あるいは失神したりして昏倒した。


「?」


彼らが何故そうなってしまったのか理解できない様子の狩人。


「はぁ・・・これはしばらく大変なことになりそうだな・・・」


アトラスは、狩人の笑みがトラウマになってしまっただろう官僚たちに同情しながら、溜息を漏らすのであった。

妾の話のはずじゃったのにぃ・・・。

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