14.3-02 変化2
騎士たちからワルツたちに向けられる視線の色が、作業前と作業後とで大きく変わったことに気付かないまま……。作業が一段落したワルツたちは、地底にある自宅内へと戻っていた。
彼女たちはそこで昼食が出来上がるのを待ちながら、何やら相談を交わしていたようである。
「で、どうするの?ジョセフィーヌ。どうやって公都……っていうか、この国を取り戻すつもり?」
公都で何が起こったのか分からない現状、これから具体的にどうすれば良いのかは、ワルツにも見当が付かなかった。もしも大公の座にワルツ自身が着いているというのなら、今すぐ公都に乗り込んで関係者を片っ端から牢屋に放り込めば、それで事足りる話だと言えるだろう。しかし、大公はワルツではなく、ジョセフィーヌなのである。しかもワルツは他国の出身者。レストフェン大公国の争いごとに、あまり首を突っ込みたくなかったようである。そう、彼女はいつも通りに、考え方が後ろを向いていたのだ。
対するジョセフィーヌは、難しそうな表情を浮かべて考えつつも、ワルツの問いかけに返答する。
「現状やるべき事は2点あると考えています。1つは公都で何が起こったのかを確かめること。敵を知らずして戦うわけにもいきませんので」
「まぁ……そりゃそうよね。で、もう1つは?」
「仲間を増やすことです。現状、私には近衛騎士団の方々しか仲間はおりませんから、一緒に公都を取り戻してくれる仲間をかき集める必要があります」
「アテはあるの?」
「……アテは2つ。可能なら、各地の領主たちに声を掛けることと……あとは学院を宛てに出来るのではないかと考えています」
「学院……?戦力になるのかしら?学生なんでしょ?」
「もちろん、学生を戦力にしようとは思っていません。学院は、ある種の兵器工場のようなものです。レストフェン大公国の魔法技術は、学院で開発されて、国全体に広がりますから、学院に協力を取り付けられれば、公都に対する新たな技術提供を防止する事が出来ます。そしてあわよくば——」
「こっち側の勢力に、武器の供与をお願いできるかもしれない、と」
「はい」
「そんな上手く行くかしらねぇ……」
学院に協力を取り付けるよりも、公都に対する物流や資金の流れを断った方がいいのではないか……。そんな事を考えるワルツだったものの、レストフェン大公国の事情を詳しく知らなかったこともあり、ひとまず反対することはなかった。
彼女が考え込んでいると、ジョセフィーヌが説明を追加した。
「それに、学院の教師たちには、元騎士団の者たちや、魔法に精通したスペシャリストが多数いますから、公都を取り戻す際に大きな戦力になるはずです。それに、学生たちも力にならない訳ではありません。ただし、彼ら自身の力を当てにしているわけではありませんが……」
「……コネとか繋がりとかを狙っている、ってわけね?」
「はい。教師たちにしても、学生たちにしても、各地の領主や貴族の関係者だったりするので、その線から有力者たちに協力を取り付けるというのは可能だと思うのです」
「なるほどね……。問題は、学院に公都の手が回っていないか、ってところかしら?」
「はい……」
すでに学院に公都からの手が伸びていれば、万事休す……。ワルツに痛いところを突かれたジョセフィーヌの表情はとても険しく、彼女自身も自分のプランについて楽観視はしていなかったようである。




