14.3-01 変化1
……明くる朝。
トンテンカン、トンテンカンという音が、朝早くから地下空間に鳴り響く。それも1箇所ではない。複数の場所で、だ。
というのも、近衛騎士たちが未完成の自宅を完成させるべく、家の扉を作ったり、あるいは家具を作ったり……。皆で役割分担をしながら、木工作業を行っていたからである。工具や釘については、ワルツからのサービス提供だ。ほか、木材については、以前ワルツたちが、地上から持ってきて、そのまま地下空間に積み上げられていたものを使用する形になっていた。
そんな作業を進める騎士たちの表情には、何とも表現しがたい複雑な色が浮かんでいた。色々と納得出来ないことがあったのだ。ただし、地下空間の存在そのものについて納得出来なかったわけではない。皆、夜の内に、思考の整理は付いていたからだ。
では、彼らは一体、何に納得出来なかったのか、というと——、
「金槌と鋸と鉋を10本、ノミを5本、あと釘が1000本追加ね」じゃらじゃら「ん?木の板が足りない?」チュィィィン「はいどうぞ」
——といったように、ワルツが次から次へと新しく、工具や材料を量産していたからだ。普通なら複数の職人たちが数日掛けて作る金物や資材を、目にも留まらぬ早さで、寸分の狂いもなく、まったく同じに作り上げていく様子は、まさに工作機械。そんな彼女の姿が、騎士たちの目にどのように見えていたかは、彼らの表情が語っていると言えた。
それは近衛騎士団長のバレストルも同じである。幼女にしか見えないワルツが、同じ品質のものを繰り返し作り上げていく様子を見て、複雑そうな表情を見せながら彼女に対し問いかける。
「ワルツ様……もしや、人間ではなかったりしませんよね?」
「……はあ?何言ってるのよ。どこからどう見ても町娘でしょ?目でも腐ってるの?」
「さ、左様ですか……(あなたみたいな町娘がどこにいる、と言いたい……)」
そんな事を問いかければ、恐らくは"ここにいる"と帰ってくるのだろうなと思いながら、口を噤むバレストル。
対するワルツもその内心では——、
「(やっば!調子に乗りすぎた!)」
——自身の発言に後悔していたようである。敢えて言うまでもない事だが、彼女には自身が人ではない事を公にするつもりはないからだ。
そんな彼女にとっては幸いというべきか、他にも人ではないと疑われていた者がいた。
「〜〜〜♪」ズドォォォォン!!「はい、お姉ちゃん。鉄」
その場の地面を削り取って、各種金属を精錬していたルシアもまた、騎士たちから驚きの目を向けられていたのである。固い岩盤を削り取って、それをプラズマ化させて還元し、重力制御魔法を使って高純度化させていく……。この世界の一般常識や技術と比べて異次元のレベルと言える作業を行うルシアを前に、騎士たちは畏怖の感情を抱いていたようだ。
ルシアたちの行動に比較的慣れているはずのジョセフィーヌも、他の騎士たちと同じような反応を見せていた。彼女は、仕事が一段落した様子のルシアに向かって問いかける。
「どうすればルシア様のように、強く高度な魔法が使えるようになるのですか?」
「うん?毎日使ってたら、いつの間にかこうなってたよ?皆、魔法を使う頻度が少ないだけなんじゃないかなぁ?」
「そう……ですか……」
果たして毎日魔法を使うだけで魔法は強くなるのだろうか……。ジョセフィーヌは何とも煮え切らない疑問に苛まれていたようだ。
なお——、
「……やることがない妾は、頭から尻尾を生やしてみるのじゃ!」シャコンッ
「「「!」」」
——テレサもテレサで皆の視線を集めていたようだが……。彼女が皆から向けられていたものは、畏怖の視線ではなく、奇異の視線だったようである。




