14.2-24 Exception8
小さな混乱(?)はあったものの、騎士たちを地下空間に案内するというイベントは、概ねワルツの予定通りに終えることが出来た。その背後にあったのはジョセフィーヌの活躍だ。彼女が事情の説明に一役買ってくれたことで、スムーズに話が進んだのだ。
地下空間に新たな家を建てる際もそれは同じだった。
ズドォォォォン!!
轟音を上げつつ、地面から石の家が生える。ルシアの魔法だ。彼女が地面に手をついた途端、ものの10秒もせずに、一戸建て住宅が豪快に出来上がった。それも大量に。
その光景は、最早、村を通り越して、町と言えるほどの規模だった。地上にある村の大きさよりも遙かに広範囲にわたり、また背の高い建物が並んでいたのだ。
そんな家々が突如として出来上がった光景に、騎士たちは唖然として言葉を失っていた。自分たちが今まで見下してきた獣人が、自分たちよりも遙かに大規模な魔法を使えるどころか、異次元のレベルで使いこなしているのだ。獣人と人間の立場が完全に逆転したように感じられたのか、皆、地下空間を見た際よりも、唖然とした表情を見せていた。中には、驚きのあまり、白目を剥いてピクピクと揺れている者までいたようだ。
そんな騎士たちに向かって、ジョセフィーヌはどこか嬉しそうに呼びかけた。
「皆さん。この地下空間では、このような魔法が当たり前のように使われています。天井に浮かぶ太陽や、地底を流れる川など、すべてが魔法仕掛けです。一つ一つに驚いていると、まともに生活することは出来ませんから、早くなれるよう努力して下さい。……そして、これら魔法を見習い、自分の魔法の研鑽も怠らないように」
と、暗にルシアから技術を盗めと口にするジョセフィーヌ。そんな彼女の副音声を理解したのか、ルシア本人も苦笑を浮かべていたようだ。
それから騎士たちには、各々、家が割り当てられることになった。その際、家が未完成である事を告げられ、騎士たちは、魔法では作れなかったドアや窓、あるいは家具などを、自分たちで用意しなければならないことを知る。
「……というわけだ。明日からは時間があるとき、自分で家を作っていくことになるだろう。鍛錬の一環として取り組むように。いつまでも自宅が完成しないやつは、外に放り出されると思え!」
「「「はっ!」」」
誰よりも順応が早かった隊長バレストルが指示を出すと、落ち着きを取り戻しつつあった騎士たちが一斉に返事をする。流石に、国を代表する騎士団だけあって、どんな状態にあっても、指揮系統は安定して機能しているようだ。
その後、解散して夕餉の準備が始まった後、バレストルに対し、ジョセフィーヌが問いかけた。
「さすがは騎士団長様。慣れるのが早いですね」
「……いえ、慣れているように見えるのは表側だけです。内心では混乱の真っ最中ですよ。ジョセフィーヌ様こそ、随分と慣れておられるように見えますが?」
「ふふっ。慣れていると言いますか……楽しんではいますね」
「楽しんでいる?」
「えぇ。だって……」
ジョセフィーヌはそう言って、バレストルよりも何歩か前に出て……。そしてそこでくるりと後ろを振り返ると——、
「このような経験、公都にいたら絶対に出来ない事ですから!」
——まるで少女のような笑みを見せたのである。
「……ジョセフィーヌ様、ここ数日で大きく変わられましたね」
「えっ?」
「いえ、独り言です」
数日もすれば、自分もジョセフィーヌのように大きく変わっているのだろうか……。バレストルはそんな事を考えながら、天井で輝く太陽を見上げたのであった。




