14.2-23 Exception7
「……申し訳ない、ワルツ様。これはいったいどういうことだろうか……?」
ピクリとも動かずに地面に倒れていた獣人たちを見て、騎士団長が眉に皺を寄せる。見るからに事件の香りがしたらしい。
対するワルツは、騎士団長の言葉に、こんな副音声を感じ取っていたようだ。……犯人はお前だな?と。ゆえに彼女は、別に疑われているわけでもないのに、否定の言葉を口にする。
「いや、私じゃないわよ?(原因は私かも知れないけれど……)ほら、皆の顔を見てよ。すっごくいい顔をして倒れてるでしょ?」
「うむ……確かに……。もしや、危険な薬物では——」
「そんなのやってるわけないでしょ?!」
と言いつつ、冷静に状況を見直すワルツ。その結果——、
「(意識の無い獣人たち……恍惚な表情……否定する容疑者……あ、うん)」
——疑われて当然なシチュエーションだということを理解する。
「えっと、魔法よ?魔法」
「……噂には聞いていましたが、危険な薬物と同じ効果のある魔法があr——」
「いやいやいや、そっちじゃなくて、獣人たちが魔法を使ったの。魔法を使って、魔力を使い果たして、それで昏倒したってわけ。いい顔で寝てるのは、初めて魔法が使えて嬉しかったからよ?これでいい?誤解は解けた?」
「……そのお話が真実だとすると、とても驚くべきことですが……ところで、彼らはどのような魔法を使ったのです?」
「(あっ……この人、まだ私の事を疑ってる……)」
一度疑われた事を中々払拭出来ない……。ワルツがそんな状況に頭を悩ませていると、ジョセフィーヌが苦笑を浮かべながら、2人の会話に割り込んできた。
「バレストル。彼らは攻撃魔法を使って、魔力を失ったのです。ほら、壁やその辺の地面をご覧なさい。黒く焼け焦げたり、不自然に崩れたりしていますよね?アレはすべて獣人たちがやったのです」
「(バレストル……あぁ、この団長さんの名前ね?)」
どうやら騎士団長の名前はバレストルと言うらしい。ワルツは一応、地上で彼の名前を聞いていたのだが、あまり興味が無かったためか、聞き逃していたらしい。
「やはりそうでしたか……。獣人が魔法を使えるとは……」
「(やはりって……私が悪くないって分かってたんじゃない!)」
と、思うワルツだったものの、出会って間もない騎士団長に文句を言うのもどうかと思ったのか、その言葉は飲み込んだようだ。
代わりに、ジョセフィーヌが説明を続ける。
「ルシア様もテレサ様も魔法が使えるのですから、我が国の獣人たちが魔法を使えないわけがありません。私たちは常識や思い込みと言ったものに支配されていたのです。この先、この国は大きく変わることになるでしょう」
「…………」
騎士団長バレストルは無言で、地面にあった小さなクレーターを見つめていた。理由は定かでないが、彼を無言にさせてしまうほどの大きな何かがその場にあったのは間違いなさそうである。
ただ……。地面をジッと見つめるバレストルを見ていたワルツは、未だ頭の切り替えが出来ていなかったようだが。
「この人、まだ私の事を疑う材料を探している……」
バレストルが、重箱の隅をつつくように、自分の事を疑おうとしていると考えていたらしい。
対するバレストルは、フッと息を吐いて、ワルツの言葉を否定する。ただし、トゲは消えていなかったようだが。
「いえ、ジョセフィーヌ様が信頼されている方ですから、私たちも信頼しております。……たとえ、どのような国から来て、どのようなことをしてきた方々なのか、知らなかったとしても……」
と、暗に「お前たちは何者だ?」と問いかけるバレストル。
それに対し、ワルツは——、
「だから怪しい者じゃないって……」
——まるで容疑者のテンプレートのような返答を続けて、墓穴を掘り続けるのであった。




