14.2-22 Exception6
「んな……んだ……これは……」
地下空間を見た騎士団長は目を丸くした。ただし、地下の奥底で獣人たちがグッタリと倒れていた事に気付いたから、というわけではない。言うまでもなく地下に広がっていた広大な空間そのものに驚愕したのだ。何の変哲も無い村の地下に、村よりも遙かに大きな空洞が広がっていて、その上、空中では太陽が輝き、地底では川が流れているのである。例えるなら、地中にもう一つ世界があるのを見つけたようなもの名のだから、驚かない方が難しいと言えるだろう。
そんな騎士団長の反応を、ワルツたちは満足げに眺めていたようである。ジョセフィーヌも一緒だ。彼女もまた、騎士団長がどんな反応を見せるのか気になっていた1人だったようだ。
彼女はまるで数日前の自分の姿を見ているかのように笑みを浮かべながら、嬉しそうに騎士団長へと問いかけた。
「ふふっ、やはり驚きますよね?」
「ジョセフィーヌ様……これは一体……」
「詳しくは秘密です。お詳しい話は、機会があった時に、ワルツ様方に聞いて下さい。私の口から語れるお話ではありませんので」
そう言いながら階段を下っていくジョセフィーヌの足取りは軽く、まるで弾んでいるかのよう。実際、タタン、タタンとステップを踏んでいたようだ。
そんな彼女の姿を後ろから眺めていた騎士団長は、この時、2つの意味で驚いていたようである。1つは前述の通り、空間自体に対する驚きで、もう1つは——、
「(ジョセフィーヌ様……そのような笑顔を見せられるようになられたのですね)」
——ジョセフィーヌが見せた笑顔に驚いていたようである。
公都の城にいたジョセフィーヌは、"大公"という立場上、私的な感情を表に出すことを禁じられていた。私的な考えも同様だ。ジョセフィーヌという個人が、国の行く末を決めるわけにはいかないからだ。
彼女がその座に着いたのは、今から5年ほど前の話。先代の大公が急逝し、本人もよく分からないうちに、ジョセフィーヌは大公の座に担ぎ上げられていたのである。ジョセフィーヌとしては、どうにか大公らしい大公になろうと努力をしたようだが、その結果が人間性の欠如に繋がり、彼女から感情を奪ってしまったのである。
ところが、ワルツたちに誘拐された後のジョセフィーヌは、年相応の女性らしい表情を見せるようになっていた。公都にいた際は、鉄仮面などと揶揄されていたにも関わらずだ。
ゆえに騎士団長にとっては、ジョセフィーヌのその変化が大きな驚きとして感じられていたのである。……いったい、ジョセフィーヌに何があったのか。どうやって彼女は人間らしい感情と表情を取り戻したのか。それもたったの4日間で……。そんな疑問を抱えながら、騎士団長は階段を下っていった。
そんな騎士団長に続く騎士たちも、彼とほぼ同じ反応を見せていた。地下空間を見た彼らは、例外なく、驚くか、あるいはテンションを上げるかのどちらか。流石にジョセフィーヌからは距離が離れていたので、彼女の変化に気付いた者はいなかったようである。
そして一行は数百メートルにも及ぶ長い階段を数十分掛けて下り、ようやく地下空間へと辿り付いた。そして——、
「い、いったい何が……」
——地下空間に広がっていた惨事(?)を目の当たりにして、彼らは再び驚愕の表情を浮かべることになったのである。……そう、今度こそ彼らは——、
「「「 」」」ちーん
——意識を失ってグッタリとしていた獣人たちと邂逅したのだ。




