14.2-20 Exception4
一行は村長の館にやってきた。もちろん、ワルツも一緒だ。偉そうなことを言った手前、後に引けなくなり、地下空間に逃げるという選択肢を失ったらしい。村長に案内された一室で、公都での出来事を近衛騎士の団長に対して説明する。
「こ、公都でそのようなことが……」
事情を聞いた団長は、その話の内容が信じられないといった様子で俯き、そして拳を握りしめた。自分たちが不在の時に起こった事件だったので無力さを感じたのか、あるいは、先ほどワルツから言われた言葉が心を締め付けていたのか……。いずれにしても、彼は悔しさを感じている様子だった。その様子を見る限り、彼がジョセフィーヌのことを裏切るようなことは無さそうである。
「いったい誰が……」
……今回の謀反を企てたというのか。公都の城にいる多くの兵士たちが、皆、一斉に反乱を起こすなど、入念に準備しなければ不可能な事である。兵士たちが、獣人たちのように、迫害を受けていればまた話は別かも知れないが、ワルツたちが公都に忍び込んだ(?)際に見た兵士たちの姿は、迫害を受けているようには見えず……。やはり、誰かが裏で糸を引いていると考えるのが自然な流れだと言えた。
「誰が反乱の中心になっていそうか、予想出来たりしないの?ジョセフィーヌと仲が悪い人とか、私利私欲に目が眩んでいそうな人とか、ちょっと頭がヤバそうな人とか……」
ワルツが問いかけると、団長の眉間の皺がより一層深くなる。どうやら、誰一人として思い至る人物はいないらしい。
その結果、団長はしばらく考え込むのだが……。彼の口からようやく出てきた言葉は——、
「面目ない……」
——謝罪の言葉だった。
というのも、近衛騎士は、大公ジョセフィーヌを守るだけでなく、反乱の情報を集めて未然に防ぐという役割も持っていたので、反乱を察知出来なかった今回の一件の責任は、近衛騎士にあると言えたからである。公都にいる政府高官たちや貴族たちに、謀反を起こそうとしているという噂や情報は無く、近衛騎士たちにとっては、まさに寝耳に水。本来であれば団長は、打ち首になっても文句は言えない立場にあると言えた。
ただ、彼にとっては不幸中の幸いと言うべきか、襲われたジョセフィーヌは大事に至らず(?)、また、彼女に差し迫って危険が及んでいるというわけでもなかった。そして何より彼は、窮地に陥ったジョセフィーヌの見方。四面楚歌とも思えるようなレストフェン大公国の中において、近衛騎士たちの存在は、ジョセフィーヌにとって唯一の希望でもあったのである。そんな状況の中で、騎士団長だけが捉えられて打ち首になる、という展開は、とりあえずは無いと言えよう。
ジョセフィーヌの方も、騎士団長を罰するつもりは無かったようだ。
「謝罪はいりません。今回の一件を察知出来なかったのは私も同じこと。今は過去を考えるよりも、これからどうすべきか未来を考えましょう。そして取り戻すのです。私たちのレストフェン大公国を」
ジョセフィーヌのその言葉に、団長は顔を上げた。その表情は、絶望の中に救いを見つけたかのよう……。彼は覚悟を決めた様子で——、
「御意に」
——国を取り戻すことをジョセフィーヌに誓ったのである。
なお——、
「(うわー、ヤバっ……。また変な事に首を突っ込んじゃったわ……)」
「(さすがお姉ちゃん!何か持ってるんじゃない?)」
「(……ア嬢。それ、褒めておるのかの?それとも貶しておるのかの?)」
——ごく一部に後悔のあまり頭を抱えている者もいたようだが……。まぁ、いつものことなので触れないでおくとしよう。




