14.2-19 Exception3
出発して30分と経っていないというのに、ワルツたち一行は、出発した際と同じメンバーのまま村へと戻ってきた。するとそこには意識を取り戻し始めていた近衛騎士たちの姿があって、村の中は大騒ぎになっていたようである。……そう、色々な意味で。
「た、隊長!!空から女の子が……じゃなくて、ジョセフィーヌ様がっ!」
「馬鹿なっ?!」
「空を……飛んでる……」
緊急事態だったこともあり、ワルツたちは、村の外ではなく、直接村の中へと降り立った。そのことが、近衛騎士たちや村人たちにとっては、衝撃的な出来事だったらしい。皆、例外なく、ワルツたちを見つめたまま固まっていた。
そんな近衛騎士や村人たちを見たワルツは、何を思ったのかギョッとした反応を見せると——、
「おっと!ちょっと待っててね?茂みを拾ってくるから」がさごそ
「お姉ちゃん、もう茂みはいらないと思う」
「う、うん……。なんかこう、恥ずかしい……ううん、なんでもない……」
——そんな意味不明な行動を見せた後で、ジョセフィーヌに向かって問いかけた。
「ジョセフィーヌ。この人たちは大丈夫なの?」
「…………」
ジョセフィーヌから返事は無い。ジョセフィーヌにも近衛騎士たちが敵かどうか判断できなかったのだ。
そんな彼女は、近衛騎士たちの方へと一歩あゆみ出た。そして、近衛騎士たちに向かって問いかけたのである。
「……貴殿らに問おう。貴殿らは私の敵か?それとも味方か?」
そう口にするジョセフィーヌの服装には、篝火の中でもハッキリ見えるほど大きな血痕が残っていた。彼女はそれをこれ見よがしに騎士たちへと晒しながら、彼らの反応を観察する。
対する騎士たちは、皆、動揺した様子だった。驚きと困惑を表情に浮かべ、一様に顔を青ざめさせる。いったい何があったのか……。皆、最悪の状況を想像してしまったらしい。
そんな彼らの様子を見る限り、騎士たちがジョセフィーヌに対して危害を加えようとしているようには見えなかった。どうやら彼らは、公都の城にいた兵士たちとは異なる考えを持っているようだ。
ジョセフィーヌが騎士たちの反応を伺っていると、隊長と呼ばれていた者が地面に膝を突く。それに倣って、他の騎士たちも、一斉に膝を突き始めた。
そして一通り皆が膝を付いたところで——、
「我ら近衛騎士一同、死せるときまでジョセフィーヌ様と共にあr——」
「あー、ごめん、そういうのいらないから」
——ワルツが大事な場面に口を挟む。
「なっ……」
「そういう立派な言葉は、ジョセフィーヌのことをちゃんと守れるようになってから言ってね?今の貴方たちは、ハッキリ言って、ただの足手まといでしかないわよ?たとえばね——」
次の瞬間、ジョセフィーヌの後ろにあったはずのワルツの姿は、隊長と呼ばれた人物の目の前にあって、彼女はその首に——、
「こんな風に」
——手刀を突きつけたのである。
「っ?!」
「言葉では何とでも言えるからイマイチ信じられないのよ。行動で示すべきね」
そう口にした直後、ワルツは一瞬で消え、いつの間にかジョセフィーヌの後ろへと戻っていた。そんな彼女の行動にジョセフィーヌは目を丸くしていたが、状況的に態度を変えるわけにはいなかったからか、そのまま隊長のことを見つめ続けた。
対する隊長は、ワルツに手刀を突きつけられたままの姿勢で、しばらく固まっていたようである。そして彼はポツリと呟いたのだ。
「……無念」
と。




