14.2-17 Exception1
そして——、
「…………」じぃ
「……えっと?」
「あなたのおかげで、獣人に対する見方が随分と変わりました」
「あ、はい……?」
「ありがとう」
「えっ……」
——自宅のベッドに横たわっていたアステリアに対し、ジョセフィーヌの別れの挨拶が終わる。その際、ジョセフィーヌから向けられた感謝の言葉に、アステリアは戸惑い気味だった。なぜ感謝されているのか分からなかったらしい。
その後、戸惑うアステリアをベッドに置いたまま、ジョセフィーヌとワルツたち一行は地下空間を去り、空へと飛び上がった。地上とは異なるひんやりとした空気が、ジョセフィーヌたちの肌を撫でる。
「少々冷えますね」
「あ、ごめんなさい。風魔法を調整して温めますね」
と、ルシアが言った瞬間、周囲の空気が3度ほど上昇する。
「……これもルシア様の魔法なのですか?」
「うん。火魔法と風魔法の複合魔法だよ?調整がすっごく難しいから、色々と工夫してるんだけどね」
「その年齢で複合魔法とは……」
「まぁ、複合魔法って言うか、ただ混ぜてるだけなんだけど……」
と言いつつ、後ろを振り向くルシア。すると、その瞬間、その場に人工太陽の姿が現れる。常夏の太陽だ。20度ほどは上昇しただろうか。
「不可視化していたけど、常に何個かフレアを作っておいて、その周囲で風を起こして、その風で身体を温めてる、って感じ」
「…………」ぽかーん
「ちょっと、ルシア?夜に人工太陽……フレアっていったっけ?そんなの光らせたら、地上にいる人たちにバレるわよ?」
「あっ!そ、そうだね!ごめんなさい!」
ルシアが首肯すると、人工太陽はその場から姿を消した。ちなみに、ルシアの人工太陽は不可視状態になっても、常時彼女の周囲に浮かんでいるのだが、有効、無効を切り替えられるらしく、誰かが知らずに近付いて灰になったり、建物が焼けたりすることは無かったりする。
眩い人工太陽が消えると、ジョセフィーヌの反応も戻ってくる。
「そ、そんなにも簡単に、あの強大な火魔法が使えるのですか?!」
「使えるって言うか、むしろ、なんでみんな使えないのか、そっちの方が分かんないんだけど……」
ルシアがそう口にすると、ジョセフィーヌは黙り込んで何かを考え始めた。そんな彼女が何を考えているのかは定かでない。もしかすると、ルシアの出身国——つまりミッドエデンの住人たちを、ルシア基準に考えて、トンデモ国民ばかりのトンデモ国家がある、と考えているのかも知れない。まぁ、強ち間違いではないのかも知れないが。
そんなやり取りを交わしている内に、公都の姿が見えてくる。公都の姿自体は何ら変わりは無い。4日前と同じだ。
ルシアはそんな公都の姿を見て、着地場所を探した。
「あのお城のテラスに着地するね?」
問いかけるルシアだったものの、ジョセフィーヌからは返答が無かった。今なお、何かを考え込んでいるらしい。
ルシアは仕方なく、そのまま城のテラスに降り立った。すると、ジョセフィーヌがようやく我に返って——、
「……はっ?!も、もう着いたのですね!」
——驚きの声を上げた。そして彼女は——、
「せっかくですので、お茶でも——」
——ある意味、定型文とも言えるそんな誘いの言葉をルシアたちへと向けるのだが……。そこで誰もが予想しなかった事件が起こる。
バタンッ!!
テラスの扉を開けて、無数の兵士たちがテラスにやってきたのである。それも皆、完全武装の状態で。
その様子を見たジョセフィーヌは、慌てて声を上げた。
「ま、待ちなさい!彼女たちは来賓です!武器を向けることは許しません!」
国家元首たるジョセフィーヌの言葉に兵士たちは絶対服従——そのはずだった。たとえ4日間、城を開けていたとしても、ジョセフィーヌの大公の座が揺らぐことなど、ありえない事だからだ。
そう、ありえない事だった。そのありえないはずのことが——、
ビュゥンッ!!ザクッ!!
「……え……」
ドサッ……
——起こっていたのである。




